一 マッコウクジラのこと、ハナコとその家族のこと

オトナのマッコウクジラの大きさは、オスが体長約十六メートル、体重約五十トン。メスが体長約十二メートル、体重約二十トンで、オスとメスの身体の大きさに開きがある。このように雌雄で身体の大きさや形状が大きく違うことを『性的二型』という。ハナコの体長は約七メートルでお兄ちゃんは約十メートルだ。

これに対し、ダイオウイカの体長は足の長さも含めると数メートルから十メートルくらいだが、今、お父ちゃんがハナコに獲らせようとしているダイオウイカは十メートル近くあるようだ。

しかし、お父ちゃんが大好きなハナコは、お父ちゃんに褒めてもらいたくて、ダイオウイカ目がけて力いっぱい超音波を発射させた。

超音波を見事に命中させ、突進して「ガブリ!」と噛みついてみせる。

ところが今度のダイオウイカはハナコには少し大き過ぎたようだ。くわえられながらも必死に抵抗し、触手と呼ばれる特別に長い二本の足の先にあるツメでハナコの頭を叩いたり引っ掻いたり吸盤で吸いついたり。何しろ体長はハナコのほうが小さいのだからハナコも大変だ。

マッコウクジラの歯は下あごにしかなく、上あごは下あごにある歯がすっぽり仕舞えるような穴があるだけだから、噛みつくことはできても、食いちぎったり、噛み砕いたりすることはできない。餌は呑み込むのだ。

「ハナコ、頑張れ!」

「ハナコちゃん、しっかり!」

お父ちゃん、お母ちゃん、お兄ちゃんに励まされて、ハナコは必死に頑張って、やっと自分より大きなダイオウイカを呑み込むことができた。

「よーし、よく食べられた。偉いぞ、ハナコ」

お父ちゃんに褒めてもらえて、ハナコは嬉しそうに、「ふーっ」と溜息をついた。そんなハナコを家族は温かいまなざしで見つめている。

「じゃあ、みんな、そろそろ海面に上がろうか」

お父ちゃんは家族にそう言った。