室生犀星の詩には、まだ続きがある。

「そして悲しくうたふもの

よしやうらぶれて異土の乞食となる

とても帰るところにあるまじや

ひとり都のゆふぐれに

ふるさとおもひ涙ぐむ

そのこころもて

遠きみやこにかへらばや

遠きみやこにかへらばや」

『室生犀星小景異情その二』より

ふるさとはいいものだ。しかし、帰りたくて、帰りたくてどうしようもなくても、帰れない自分がここにいる。

「まだまだ帰れないな。」

「帰っちゃいけないな。」

と、敢えて自分を暗闇のトンネルに放った。

旅半ば、折り返し地点のロサンジェルスに着いた。バスの車窓からビバリーヒルズの町並みが目に入る。高い塀に囲まれた白壁の高級住宅地だ。ここの人たちは家を平均三度変えるという。最初は小さい家。二度目は大きな家を買う。三度目にその家を売ったお金で小さめの家を買って老後の生活を楽しむ。なんとも羨ましい人生計画だろう。

一方、山の方角に目をやると、街の高台に「ハリウッド」という巨大な文字が現れる。この街に来ると、誰もが目にするロゴだ。しかし、ここでこんな話を聞いた。

「この『「ハリウッド』という立て看板は、以前は『ハリウッドランド』というロゴだったという。この最後の『ランド』という文字の上から飛び降りて自らの命を断つ人がいた。しかも、この文字を合計すると十三文字になるので不吉だということで、『ランド』という文字を外したそうだ。」

ここは、夢破れし若者が命を落とす場所だったのだ。「ふるさと」を思いながら、帰りたくても帰れない人々がいたのだ。欲望と怒り渦巻くこの大都市で、優しい手を差し伸べてくれる人もなく、さみしい思いをしている人たちが少なくないことを知った。

「この『ひとり旅』をただの観光では終わらせたくない!」

と改めて思った。

 

ロサンゼルスには、世界で一、二を争うほど大きなチャイナタウンがある。そこへ行くと、とても「元気な中国語」が聞こえてくる。男女問わず店員さんが、客に声をかけ、話をしている光景が、そこかしこに見られる。いろいろなところから生肉の匂いや魚の匂いがしてくる。学生時代、中国に行った友人がこんな話をしてくれたことを思い出した。

「中国の図書館に入ると、鉛筆の書く音がすさまじい。そこで勉強している人が、力強く紙に書いているときの音が異常に大きい。彼らは、『自分の国はまだまだ発展途上だから、自分たちがもっと頑張って、この国を豊かにしなければならない』という気持ちで勉強している。」

「中国人って、すごいな。日本人はかなわないや。」

と思った。ロサンゼルスには、日本人街もあると聞いていたが、それはどこにあるのかわからなかった。

※本記事は、刊行の書籍『ロッキー山脈を越えて』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。