元々千葉は野球が盛んな地域で、現在でも170校のチームが激突する全国屈指の激戦区だ。その中でも、銚子商の宿敵といわれた習志野高校は、全国を2度も制覇した高校である。千葉県を制するには、まず全国を制覇した事のあるチームを相手にしなくてはならなかった。

また、2020年代の現在でも、千葉県出身のプロ野球選手は多く、それもただプロ野球ではなく、第一線で活躍する選手も多い。また、球史に名前を残すプレイヤーも多い。銚子商野球部出身者では、実に3人のプロでのタイトルホルダーが存在している。

激戦区千葉を勝ち抜いて、甲子園への切符を手にするだけでも大変なのに、毎年全国での上位、ひいては優勝候補と唱えられる。それが、あの年の春の甲子園で、あの報徳戦での大敗……この時、一般生徒からの話だが、大敗をした生徒、つまり野球部員は非常に肩身の狭い思いをしているという。

それは、一般生徒の親御さんが銚子商野球部のファンであり、そして当然、銚子商野球部に対し「寄付」を行った一人であるため、「寄付を返せ!」「帰ってくるな」という罵声を、その親御さんの代わりに息子である生徒が浴びせているという。つまり、クラスメイトから「寄付を返せ!」といわれるのだ。

だが、これもすごい話で、ただ地方大会で負けたわけではなく、全国の「聖地」で負けたわけで、普通ならこのようなことは起きない(と思う)。しかし、それも「千葉最強」のチームであるが故の運命である。

春のセンバツで、報徳学園に大差で負けたことで、土手クラブの面々にも、斎藤監督の、センバツの屈辱を、江川を倒すことで晴らす、という姿勢が見えていたという。稀代の投手と、公式戦練習試合で4度も相まみえるとは、誰も思っていない。しかも遠く離れた栃木の学校のエースが、千葉県、そして日本最東端の海の町の学校と、そこまで当たるのは、何か因縁めいたものがあった。

これは、もし最後に怪物と相対することになった場合、大きなマイナスとなった。ただ、その時は刻一刻と迫っている。周囲が甲子園、甲子園と騒いでいるが、その前に千葉県大会を戦い抜かなくてはならない。こちらには、全国屈指の投手、土屋がいた。しかし、その土屋も度重なる登板で、いつ打ち込まれるかわからない。

しかし、周囲は、銚子商の甲子園出場を疑わなかった。

※本記事は、2022年7月刊行の書籍『怪物退治の夏』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。