十七

修作は田んぼ道を歩いていた。

田植えの季節らしく、村人が田んぼに出ている。修作が通ると皆が挨拶したり、隣のものとひそひそ耳うちし噂話をしたりした。皆が修作を知っている。

あの大きな家には村人がなぜか集まってきて、思い思い過ごしているからだろう。子供らも毎日やってきた。村人にとってのいこいの広場になっている。さめざめと泣いていた男は資産家で、そういう場所をつくろうと、こんな大きな家を買ったのだろう。村人が言うには、奥の部屋はいかがわしい撮影のスタジオになっているらしい。

いつもさめざめと泣いたような声を修作はここの持ち主だと思っていたが、それは女性のよがり声だという。

たしかに、これだけのスタジオを構えているのだから修作がはずれているからと、それぐらいのことに毎日持ち主の男が泣いて、泣き言をこぼすはずがあるまいが、撮影の女性の泣き声が泣き止むことはない、という。

外国人がやってくる時は特に激しいという。村人はたった今見てきたように、片手を股間にもっていき、太いマラを模して激しくその手を動かして、こんなだった、マラの憂鬱さ、と表現してみせた。

修作はパラサイト呼ばわりされてもなおそこにいることが自分でもよくわからなかった。ずっと村人の集まりを見たりして、この地域のコミュニティハウス的なものになっているのではないかと、漠然と考えていた。

しかし、ある日のことだが、AIの活用推進施設であることを誰かに教えられた。村人と見ていた人も、このラボが買い取ったAIであった。なぜ集まるのかわかった気がした。そしてパラサイトと呼ばれた修作もまたここに採用されたAIであった。

農作業する食料生産用AI、アダルト動画用AI、修作は新しい観賞芸術を生み出すためのAIだ。AIにも職業別のタイプがあるらしい。外れた、失敗作だ、とあの男が嘆いた意味を修作はようやく理解した。

「僕はパラサイトなどではない、孤高の芸術家だ‼」修作は叫ぶ、誰に向かってかわからないが、ここだ、ここに、僕はいる、独立した一個の芸術家だ、と壁を拳で叩き、描いていたキャンバスをグシャグシャになるまで床に叩きつける。そうしたいがやるわけはなかった。

≪ではここにいる僕はいったい何者なのか? 人工知能が考える、意識をまとったヒューマノイド?? 僕は存在しない、あるのは頭に埋め込まれた人工知能だけ?? ……人間が造る人工知能が僕を僕と意識化した時のみ、僕は存在するのか……意識化しない時、僕は存在していない……そもそも人間が造る人工知能に意識はあるのか……≫