「本を探しに来た」

喉を詰まらせたような声だ。今から決闘でもするような必死の形相で僕をにらみつけてくる。

尻尾を天まで高く吊り上げ、背骨をこわばらせた僕に、

「ここは、どうしてこんなに暗いんだ」

と今度は灯りを探している。

「ここには灯りなどないんじゃよ。この暖炉の灯りがすべてなんだ」

僕が気がつかないうちにワルツさんは起きていた。

ランプに火を入れるのが面倒なんだな。

「どんなに暗くても本は見つかる。ただし、本当にその人に必要な本だけだがね」とワルツさんは言った。

なんかかっこいいこと言っているぞ。

びしょぬれ紳士は声を震わせた。

「本を手に入れるのに金以外の何かがいるということか」

「まあ、そうかもしれんな」

しばらくの間、このびしょぬれ紳士は、壁一面に並べられた本棚から乱暴に本を引っ張り出しては床に落とし、天井の近くまで梯子で登って本を探し、しまいにはマントの裾を踏んづけて梯子から落ちてしまった。

悪態をついて出ていったエセ紳士はもう二度と戻ってくることはない。だってここは、そんな場所だ。

僕は、ワルツさんに拾われた。

正確にいえば、僕が押しかけてきたってこと。

だって緑の扉が開いていたんだ。いい感じがした。

そっと入ってみると、ワルツさんは肘掛椅子で本を読んでいて、僕が鳴いたら丸縁眼鏡を外して、にやりとした。

「お願いだから、ワシの前を横切るなよ。まだまだ、ここにいなくちゃならない。そうだ、そのままこっちへ来い」

その夜、そう、僕がこの本屋に来たその日、ウォッカを飲みながらワルツさんは僕の目をじっと見て、こう言った。

「やっと、話し相手ができた。お前が猫だから話すんだ。でも、これは秘密だぞ。わしの身の上話じゃからな」