【前回の記事を読む】銀一色にもつれ合う魚たち…嵐の冬の海に湧き上がる「生命の誕生の瞬間」

(8)(おく)りもの

もうもどれない! 気づいたときはもう遅かった。

()き上がるブリたちのどよめきは、疾風(しっぷう)と波しぶきの中で千切(ちぎ)れちぎれて。 

灰色の天空を()(ぶり)()こし、腹の底までどすんとひびき、どんどん縮まる(あみ)地獄(じごく)

ブリたちはぶつかり合い、ごしごしぎこぎこ、ごしごしごし。

ビシバシと、しっぽでたたく海面(かいめん)に、むんむん上がる水煙(みずけむり)

雪がはげしく降ってきて、ゴシゴシギコギコ、ゴシ、ゴシ、ゴシ。

きびきびと、人影(ひとかげ)うごく船の上、白く吐く息ぶつけあい、叫びあい、

雪ははげしく降りつづき、

ゴシゴシギコギコ、ゴシゴシギ、ギ、ギ、

大波がざぶんざぶんと押しよせて、(ぎん)(ぎん)ぎしぎし、波しぶき。

(あみ)がざっくり波打(なみう)つたびに、ごった返しのブリたちは、

ゴシゴシぎぎぎ、ゴシゴシぎぎぎ、

ぷりぷりの、腹をぷかぷか(うわ)むけて、

ごまめの歯ぎしり、ブリの歯ぎしり、ギリッ、ギリッ、ギリッ、

ぱつん!!