【前回の記事を読む】人生は出来の悪いロールプレイングゲーム…人間に与えらえれた「バグの仕込まれた」武器とは

十一月二日(東京都杉並区)

いつの間にか公園から親子の姿は消えていた。さっきまで照り付けていた太陽も今は厚いうろこ雲の壁に隠れてしまって、公園はすっかり生気を失っている。乾燥した蚕のように縮れた吸い殻を排水溝に蹴り落として、僕はついさっき五万円スッたばかりのパチンコ屋に再び足を向けた。

自動ドアが開くと同時に、耳をつんざくような機械音の波動が押し寄せてきた。僕はその大音響の中で、繋がれた囚人ようにマシンに向かっている人々の背中をかき分け、狭くて暗い通路を奥へと進んだ。

今朝、僕が他の客を押しのけて必死の思いで確保した台には、くたびれた格好の中年の男が陣取っていて、その足元にはコインがぎっしり詰まった千両箱が何箱も積み上げられていた。

だらしなくコインを吐き出し続けるマシン。ホール中に響き渡る店員の乾いた煽り文句。次々と繰り出される派手な演出。マシンを食い入るように見つめている男の無防備な背中。その全てが僕を嗤っていた。僕は店を後にした。小さなため息がこぼれた。