サプライチェーンにおける情報共有の意味

ビジネスの現場では「情報共有」がキーワードとして使われることが多い。「情報をシェアさせていただきます」といった具合に、場合によってはさして重要とは思えない情報を共有することも少なくない。

ただ、ロジスティクス、あるいはサプライチェーン上での情報共有というと、まずは在庫情報の共有である。サプライチェーンのプレーヤー間でどれくらい在庫情報を共有しているかが重要になってくる。さらにここにきてそれはデジタルプラットフォームというかたちに進化しつつもある。在庫情報が共有されていないと、ブルウィップ効果(注1)を誘発する。

たとえば、小売店舗で商品がたまたま10個売れるとする。店舗は「たまたま売れた」とは考えず、「10個も売れたのだから」と卸売業に少し多めだが15個発注する。卸売業はそれを知り、「1店舗で15個売れるなら、100店舗分、1500個、仕入れることにしよう」と考える。メーカーは卸売業1社から1500個も注文が入ったので、他の卸売業との取引も考え、5000個、追加で生産する。小売店舗でたまたま10個売れただけなのに5000個も生産することになってしまう。

これがブルウィップ効果である。

最初の小さな波動が次第に大きくなってしまうのである。こうした波動を防ぐ手立ては情報共有である。メーカーが小売店舗で「たまたま10個売れただけ」という情報を把握していれば防げるのである。小売店舗も卸売業もメーカーも直近の情報だけに注目して、サプライチェーン全体を見渡すことができなかったのである。

したがって、サプライチェーン全体のモノの流れを緻密な情報ネットワークのなかで可視化してしまえば、在庫量を適正に保ち、ムダなコストをかけなくてもよくなるのである。ただしこれまではこうした情報共有の建付けに莫大なイニシャルコストがかかるとされ、「絵に描いた餅」といわれてきた。

けれども、シン・物流革命に突入したいまは違う。ビッグデータに裏打ちされ、IoTにより、ロジスティクスの可視化が徹底的に行われる環境が出来上がりつつある。もはや「絵に描いた餅」とはいえなくなってきているのである。


(注1)ブルウィップ効果
サプライチェーンの川下で発生した需要変動が川上に伝わる過程で振れ幅が大きくなる現象。小売店舗での販売量が少ないにも関わらず、複数の取次などを経由する過程で発注量が増え、最終的な生産量が多くなるようなケースを指す。

※本記事は、2022年5月刊行の書籍『シン・物流革命』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。