隣では四、五人の女学生が色とりどりのポップコーンを食べながら会話している。

「医者がいつまでも肉食を勧める理由ってさ、肉食をやめると病気が減るからってのもあるけど、自分達も動物実験とかで家畜の飼育以上の動物虐待をしてっから、『肉食反対』なんて絶対言えねーしってことでしょ? 製薬企業の研究者がいないと病院で薬も売れないんだからさ」

「肉食地区の医者共は動物実験で動物を山のように殺してるから」

「肉食にマイナスな意見なんてしたら、畜産農家にそこをつつかれるってか……? でも結局は飯の種である病気の永続狙いっしょ」

「前から気になってたんだけど、動物実験をしてる業者ってどこの誰なの? 理科系の秀才奇人とか?」

「製薬業界に雇われた、有機合成化学や分子生物学をやってる人達らしいよ。せっかく時間を使って頭よくなったのに仕事が動物の虐待って気の毒な人生……。肉食地区の住人って、情報不足でインビボ試験の知識とかも無いんだってね。映像規制とかで」

「え? マジ? 肉食地区本気でヤバクね? バカすぎじゃーん! キャハハハ!」

地球の女学生の言葉遣いは相変わらず乱れているらしい。しかしこの分だと、肉食地区に行ったらさぞかし酷いのだろう……。そう考えながら道を横切ろうとした途端、デモも、周囲の人間も消え、辺りは静まり返ってしまった。

あれ……? さっきまで長く続いていた行列が急にパッといなくなるなんて変だ。俺は見知らぬ土地で一人取り残されたような気になった。大体、なんで俺だけ何も知らなくて、周りの人間が全て理解してるんだ。

……目が覚めた。カーテンの隙間からはもう太陽がさんさんと照っているのが見える。俺は昨日遅番の仕事から帰ってきて、今日が休みなのをいいことに夜更かしをしたのだった。

珍しく、枕元にパセリがいた。大分深く寝ていることが顔で分かる。目を力強く閉じて苦悩の表情をしている。ベッドから降りてみても、パセリはそのままの体勢でピクリともしない。

俺は夢を頭の中で再構成してみた。なぜ行ったことも無いグリーンランドの町並みがあんなに鮮明に出てきたのだろう。実に不快そうに熟睡するパセリを凝視する。まさか……、コイツのせいじゃないだろうな……? 

パセリがぐっすり寝ているので、俺は一人で二駅分ほど離れた場所にある公園に散歩に行くことにした。水とドライフードをタイマーでセットし、財布のみ持って家を出る。

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※本記事は、2021年3月刊行の書籍『新版 VEGETUS』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。