「いいかい、お兄ちゃん、ハナコ。しっかり超音波を出して、ダイオウイカの居場所をつきとめるんだよ」

とお父ちゃんが教えると、

「はい、お父ちゃん」

と返事をしたお兄ちゃんとハナコは、クリック音と呼ばれる超音波を出した。超音波とは人間の耳には聞こえない周波数の音波のことで、だいたい十キロヘルツから十二キロヘルツ以上の周波数だ。マッコウクジラは通常、二百ヘルツから三十二キロヘルツの周波数の音波を出すから、高域の周波数は超音波ということになる。

「お兄ちゃん、ハナコ、どこにダイオウイカがいるかわかったかい?」

とお父ちゃんが尋ねた。二頭は、

「はい、お父ちゃん、わかりました」

と答えた。

「そうか、そうか」

お父ちゃんは笑いながら、

「そうしたら、お兄ちゃんとハナコの一番強い超音波をダイオウイカにぶつけて、ダイオウイカの頭がクラクラしているうちにパクッと食べてしまうんだ。お父ちゃんがお手本を見せるからね」

と言うなり、「カチッカチッ! カチッカチッ!」と高い周波数の攻撃用の超音波をダイオウイカに浴びせかけ、ダイオウイカの脳神経が平衡感覚を失っている隙にその巨体を躍らせて、「パクッ!」と食べてしまった。

「お父ちゃん、すごい!」

お父ちゃんが大好きなハナコは、手があったら拍手したいような気分で叫んだ。

「さあ、お兄ちゃん、ハナコちゃん、お父ちゃんのようにやってごらんなさい」

お父ちゃんのそばでお母ちゃんが優しく言った。

「はい、お母ちゃん!」

お兄ちゃんとハナコはありったけの力を込めて高い周波数の超音波をダイオウイカにぶつけ、ダイオウイカの頭がクラクラしている隙に突進して、「パクッ!」と食べた。

「うん、ふたりとも上手だぞ」

満足そうに頷いたお父ちゃんは、ハナコがメスの子供にもかかわらず、高い周波数の超音波を出せることに気がついた。ふつうマッコウクジラは子供よりオトナが、メスよりオスのほうが高い周波数の超音波を出すことができるのだ。

「ハナコはなかなか筋がいいぞ」

そう思ったお父ちゃんは、

「ハナコ、今度は向こうにいるダイオウイカを獲ってごらん」

と言ったが内心ではハナコには少し大きいかもしれないと思っていた。

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『クジラのハナコ 改訂版』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。