2章 責任構造物としての防災施設の使命

既存の防潮堤は地震や津波に耐えうる構造ではない

責任構造物として、有事の際に果たす役割は重大

防潮堤は、河川堤防に次ぐ重要な役割を持っていて、地球上で最も大きい水溜である海の外壁を構成している。「海は水を辞せず」の言葉通り、海は地球の陸地面から出る全ての流入物を受け入れる広大な容器である。

防潮堤は、高潮・高波・津波等、自然の起こす現象の営みのピークカットの役割を果たす構造物であり、河川堤防と同じく責任構造物である。平常時において海は、押し波と引き波とを規則的に繰り返し砂浜を漂う安定した波打ち際を形成しており、防潮堤の役割は何もない。

しかし気候変動や津波発生時に果たさなくてはならない役割は大きく、正に責任構造物の最たるものである。もし外壁が破れると大量の海水が一気に陸地に流れ込み、甚大な被害をもたらす。普段は不要のものであるが有事の時に、海の器の外壁として、守り抜いてくれるか崩壊するかで、天国と地獄の差が出る重大な責任構造物である。

素材も構造も物理的・科学的に不適格

防潮堤は、数百メートル、数千メートルと延々と続く長い「長大構造物」である。土堤をコンクリートで覆い、上部に波返しのパラペットを載せた断面形状が標準的な形状である。一般的には砂浜を掘削し、コンクリートを使って台形の「モナカ構造」を構築している。モナカの外側に当たる外壁の部分はコンクリートで造り、中詰めにあんこの替わりに土砂を詰めたものである。

このモナカ状の堤体を地球の上にそのまま置いた構造であり、歯が抜けた高齢者が総入れ歯を歯茎の上に載せているのと同じような状態である。「砂上の楼閣」の如く、地球の上に置いた長大構造物であり、原理的に何の災害もない状態の時でも全体の体型を維持し保てる構造ではなく、基本的に至って脆弱な構造形態である。

主要材料は、コンクリートと土砂で、形式は「フーチング構造体」であって、波を防ぐ抵抗力の仕組みは構造物自体の重量である。地震時には、この長大構造物に対してそれぞれの位置に地震波が襲う。

地盤の違い、構造物の線形の違い、構造物に当たる振幅の強弱や角度等から、前後・左右・上下に、ねじれのエネルギーや衝撃を繰り返し受ける。地震波はフーチング構造物が載っている底面の地盤を繰り返し揺動させて、構造物の慣性力(その場に留まろうとする力)と反発作用を起こす。

構造物の慣性力に対し、地震波のエネルギーは比較にならないほど強力なものであり、構造物がいくら大きくても地震波の盾にはならない。地震に見舞われると、人間の掌でドミノをやっているようなもので、何の踏ん張りも、粘りもなく、モナカの皮の部分はガラスか煎餅を割ったような無残な姿になり、中身のあんこの部分の土砂は、垂れ下がって拡散する。

このように既存の防潮堤は、「主要素材」がコンクリートと土砂であり、物理的・科学的に不適当な材料である。壊れてはならない、粘ることを求めている責任構造物としては、最初から素材も構造も不適格な構造体である。

また、重量で対抗する構造であるフーチング構造も防潮堤には適していない。歯茎の上に置いているだけの構造では、地震や津波には全くの無抵抗同然であり、肝心の粘ることは物理的、科学的にできない構造である。

写真を拡大 [図] 防潮堤の構造
※本記事は、2020年5月刊行の書籍『国土崩壊 「土堤原則」の大罪』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。