第三章 新任地

教授就任祝賀会 平成17年9月22日

司会者が居村教授の紹介を始めた。

「居村先生は、みなさんご存知のように、梅澤先生が研修医、医局員であった時の指導教官で、その後、京帝大学学長総長になられ、現在は、日本科学振興財団理事長をお務めになっておられます。本日、お忙しい中、梅澤先生の教授祝賀会にご出席頂いて、錦上に花を添えて頂きました。それでは、居村先生、宜しくお願い致します」

大きな拍手で迎えられながら、居村教授が壇上に登った。

「梅澤先生、本日は北陵医科大学血液免疫内科教授ご就任、大変おめでとうございます。勿論、梅澤君のこれまでの研究・臨床に対する熱心な取り組みの成果でありますが、今日まで後ろで支えられてこられた奥様の内助の功の賜物と思います。

毎年、多くの医師が私の講座に入局してきました。皆さんを全て覚えている訳ではないのですが、梅澤君は、よ〜く覚えています。その理由は、彼の顔ですね。いたずらっ子がいたずらを見つかった時に見せる、はにかんだような彼の笑顔なんですね。だから、あの顔で謝られるとあまり𠮟れないなと。彼から、時々、何か有ると連絡が参ります。そのほとんどはお願い事なんですが……。でも、あの顔を思い出すと、断れないなあ〜と思って、今日も、東京からやってきました」

会場から大きな笑いが起こった。

「先日、水戸に行く機会があって、水戸光圀公の住居跡を訪れてきました。天下の光圀公のお屋敷にしては質素な佇たたずまいでしたが、庭に大きな池があって、水鳥が気持ち良さそうに泳いでいたんですね。気持ち良さそうに見えるのですが、水中では絶え間なく水をこいでいました。これまでもそうだったと思いますが、金沢に行かれても、人の見えないところで精進を重ねて、素晴らしい講座を作って、ご自分の研究を進めて下さい。そして、日本の医学の貢献に少しでも尽くして頂きたいと思います」

居村教授が挨拶を締めくくった。