わたしが再び爪を噛んだとき、「絶対に人違いよ」と大きな声が室内に響いた。出入り口を見る。閉まっていたはずのドアがいつの間にか開いていて、亜矢が、ふふん、と誇らしげな顔で立っていた。

どうしてここに?

そんな疑問をよそに、渡りに船とばかり登場した彼女に、わたしは心から感謝する。

「根拠は?」

憎々しい目つきで、エリが尋ねた。

「ていうか、アンタ誰?」

新島(にいじま)亜矢」

亜矢は別のテニスサークルに所属している。公認非公認を含め、大学には星の数ほどのサークルが存在する。エリが知らないのは無理もない。

「ごめんなさい。ちょっと立ち聞きしちゃったの」

亜矢が舌を出す。「根拠はこれでーす」と振り返り「こっちこっち」と手招きする。

まさか貴輝が? 証人として?

恥ずかしさでわたしは頬を し赤らめると、ぬぅ~と女の子が顔を出した。

「えっ」

わたしは我が目を疑った。エリとミナも唖然とした表情で立ち尽くしている。

嘘!?

目の前にいる女の子は、コロナ禍でマスクをしているとはいえ、信じられないほどわたしにそっくりだったからだ。

「あなたは……わたし?」

わたしは驚きのあまり、意味不明な言葉が口に出る。

【前回の記事を読む】【小説】どこにも行っていないのに…絶えない自分の目撃情報

※本記事は、2022年10月刊行の書籍『第三のオンナ、』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。