第3章 情報認知

14 情報を加える足し算思考〈具体表現〉

情報表現の基本である足し算思考

具体的に表現するということはわかりやすく理解できるよう情報をつけ足すということです。

カット数の増加やテロップ、ナレーションでの補足など、単純に情報をつけ加えることによって、わかりやすさを増やす表現を「足し算思考」と呼んでいます。

足し算思考は情報表現において最も基本で効果的な思考法です。しかし、情報を単純に足し算していけば時間が長くなってしまったり、焦点がぼやけて逆に伝わりづらくなってしまったりするので、後述する引き算思考と併用して考えなければなりません。

テロップによる言葉の視覚化

今やテレビでは欠かせないテロップは言葉を視覚化することで情報の理解度を深めてくれます。

映像は情報量が多いがゆえに抽象的な側面も、もち合わせています。たとえば、太陽を映しても「晴れ・昼・暑い・明るい・まぶしい・希望」など、さまざまな意味を含んでおり、複数のカットと組み合わせないと伝えたいことの表現が難しい場合があります。

これに「今日の最高気温は40 度」などの文字情報が加わるだけで暑いというイメージだけが抽出され、1カットで「暑い夏」を表現することができます。

バラエティや広告などデザイン表現重視の映像は見栄えする装飾的なテロップが多用されるのに対して、ライブ表現重視のテロップは〈白文字+黒縁+ゴシック体〉などシンプルなテロップが多用されます。これはテロップが映像よりも目立つことによって臨場感が失われることを避けるためです。

ナレーションとインタビューの使い分け

ナレーション、インタビューなど音声による説明は目と耳をバランスよく刺激し、理解度を促進させてくれます。

ナレーションはプロのナレーターが客観的に説明するため物事を理解させるのには有効的ですが、物語への感情移入は弱くなります。

インタビューは本人がしゃべっているため、感情移入しやすくなりますが、しゃべりが下手だと伝えたいことが伝わりづらくなってしまいます。

ナレーション客観的・デザイン表現に向いている
〈メリット〉  練られた台本とプロのナレーターによる言葉は聞きやすく理解しやすい
〈デメリット〉 ナレーターは当事者ではないため感情移入しにくい

インタビュー:主観的・ライブ表現に向いている
〈メリット〉  当事者の言葉は感情移入しやすい
〈デメリット〉 素人のしゃべり言葉は構成がわるく聞き取りにくい

上記の特徴を理解した上で2つを混ぜていくのか、テロップで補足していくのかを考えなければなりません。

15 情報を組み合わせる掛け算思考〈具体表現〉

足し算思考は情報量が増えるのに比例してカット数や時間も増えてしまいます。少ないカット数で情報量を増やすには「掛け算思考」が効果的です。掛け算思考は情報の組み合わせによって意味を増幅させる手法です。

映画表現の基本であるモンタージュ理論

モンタージュ理論は1920年代にソビエトの映像作家エイゼンシュテインによって確立された概念です。映画が作られたばかりの頃は音声がなかったため、いかに映像だけで意味を伝えるかが研究されていました。

モンタージュは「組み合わせ」という意味があり、その本質はカットとカットを組み合わせると新しい意味が生まれるという創造効果にあります。

たとえば、〈Ⓐ泣いている女性〉〈Ⓑ抱き合う男女〉〈Ⓒ赤ん坊〉の3カットがあったとします。

Ⓐ → Ⓑ → Ⓒで並べられた場合、絵だけを見ると「泣いている女性が男性と抱き合った。子供がいる」と情景を説明しているだけになります。

[図1]掛け算思考なら同じ並びのカットでも物語性が膨らむ

しかし、掛け算思考で考えた場合は「不幸な女性が素敵な男性と結ばれ子供ができた」という表現になり、一気に物語性が膨れ上がりました。

このように少ないカット数でもカットの組み合わせ方次第で意味を増幅できるのが掛け算思考です。

Ⓑ → Ⓐ → Ⓒで並べれば、彼がいなくなってしまい一人で子供を育てることになった悲しい物語になります。

[図2]少ないカットでも並べ方次第で意味を増幅できる

Ⓒ → Ⓐ → Ⓑで並べれば、赤ん坊が女性に成長。苦難を乗り越えて運命の人と結ばれるという感動物語になります。

 

カットの組み合わせ方で、さまざまな意味を生み出すことができるモンタージュは、映像を芸術に昇華させる代表的なテクニックといえます。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『伝わる映像 感情を揺さぶる映像表現のしくみ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。