第一章 決心

春彦は自宅リビングにあるソファーに俯き、頭を抱えながら座っていた。そのソファーは2LDKの社宅に住んでいた頃からのもので、妻の郁子が長く使えるようにと少しずつ買い揃えた家具の一部だった。淡く上品なピンク色のサテン生地は、角度を変えてみると青みを帯びて見えることもあり、そこに施された繊細な銀糸の刺繍がとてもよく映えた。

予てから約束していた買い物に、出た時のことだった。いつも春彦にくっついて離れない郁子も、その時ばかりは違っていた。地域最大級を謳うその家具店が、ソファーだけでワンフロアを使っていたからだった。ここに来るのが、余程楽しみだったのだろう。郁子はたくさんのカタログを手にすると、瞬く間にそのフロアへと姿を消してしまった。

どれだけの時間が過ぎたことだろうか。そろそろあくびも出ようかという頃、春彦はフロアの隅で店員と熱心に話している郁子の姿に気が付いた。それは普段の甘ったれぶりからは考えられない姿で、春彦は意外ともいえる郁子のそんな一面を静かに眺めていた。

するとどうやら店員との話に、一段落がついたようだった。春彦の方をチラチラと見だしたのは、やはり甘ったれの郁子だった。

「お客様、先ほどの件につきましては、是非ご内密に……」

そんな店員とのやり取りに割って入ってきた春彦は、郁子に何を言ってやろうかと腰に手を当てていた。小一時間は経っているのだ。その間、座りっぱなしで待った春彦が、何か言っても罰が当たるというものでもないだろう。

「春彦さん、私、これが欲しいの」

口を開きかけた春彦にそう言う郁子の大きな目は、相変わらず魅力的だった。その抗いがたい潤んだ瞳で訴えかけてくるのはいつものことで、その瞳で春彦ばかりか店員をも交互に見るのだから堪ったものではなかった。機能的なものやカジュアルなものがフロアの大勢を占める中で、この一角にはクラシカルな印象のソファーが展示されていた。

郁子が選んだソファーはアンティークな感じがするもので、シリーズ展開しているのか同じデザインや布地を使った全八点が展示されていた。

しかし、春彦の視線は、別のものに釘付けになっていた。小さなサイドテーブルの上に置かれた、はがき大の金属プレートだった。