祭りの準備はととのった 島中が平穏を願い獅子が舞う

海はエメラルドグリーンに輝き 老若男女が群れ集う

ぼくらはみんな原始原子の結晶であり みんなの慰めは原始原子の子どもたちの戯れ

日向の 幸福な匂い 温められた酸素が ひかりの原始原子をつつみ みんなに流れ

君はやんごとなき言質さがして 島を出た

くわしくはしらないけれど たぶん君のことだから やんごとなしなんだ

雨のように降り マグマのように吹き上がる 言質に 君は不思議な気持ちで対峙している

少年期から消滅に強い引力を感じていた君が もうすぐ還暦だなんて信じられるかい

光を捉えるニュートリノ みえない原始原子の粒を見る 戦争を知らない世代の遠慮がゆるせない……

削除された犠牲の上に立っている繁栄と没落 君が旅に求めていたものは アンニュイな破壊と 落魄のノイズなのだろうか

愛するものは惑星軌道から 流れ出たばかりだというのに 研ぎ澄まされた言質は 矢のように君を刺し貫いていく

みんなが泣き叫ぶ夜明け前に 祭りは静かに眠りにつく

愁い顔の君の瞳は エメラルドグリーンの海を宿して

この時候の温かな午後のアトリエ・小屋の窓辺に座っていると、その気持ちよさに修作は夢を見てしまう。しかも今まで繰り返し出てくる夢のモチーフで、また同じ夢を見ていると意識する脳がそこにいた。……田舎の大きな旧家らしい。修作は入り口からあたりまえのように入り、部屋にあがり、設えられたキャンバスに即興の絵を描き出す。

そのうちに誰かがやってくる気配がして、修作はあわてて隣の部屋に寝転がり寝ているふりをした。なぜ狸寝入りをしたのか。やってきた人は修作を一瞥して、かすかに、誰? と立ち止まりかけたがそのまま奥の部屋にいってしまった。修作はまた絵の続きに戻る。

そのうち奥の部屋から呻くような、泣くような声が聞こえてきた。さっき通りすぎた人が泣いていると思った。耳をすますと、

「あの絵描きタイプには泣かされる、期待した俺がまちがいだった、全くお荷物だ、ラボに寄生したパラサイトにひとしい」

と言いながら、なおも泣きたりないとばかりに、さめざめと泣いている。パラサイトというのは修作のことを言っているようだとすぐに見当がついた。

【前回の記事を読む】「過去に逃げ込めず、未来へとはばたけもせず、現在を否定したら後には何が残るのか」

※本記事は、2022年8月刊行の書籍『ノスタルジア』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。