中学生活開始

三 いじめの本質

次の日、エリはいつもより少し遅く登校した。エリの父の徹は昨日から広島に出張しており、母の春子が起きるのがいつもより十分ほど遅くなったからである。

間もなく授業が始まる時間となって、エリは慌てて教室に駆け込み、教科書類を机に入れると、薄い座布団を敷いている椅子にどっかと座った。途端に座布団の下から「ブー」と大きな音がした。何かが座布団の下に置かれていたのだ。

「はっはっはっ、おもしろい。ブデチがブーを漏らしたぜ。ブデチの屁はやはりブーと鳴るんだな」

健一君が大発見したような口調で言いふらした。

「おお、おい広大、早く窓を開けろ。窒息するじゃないか」

連君が窓際に居た広大君にニタニタしながら声を掛けた。

エリは、平然と座布団の下から音を出した玩具を取り出して、両手で思い切り潰すように押した。「ブー」と玩具から大きな音が出た。

誰のいたずらかは聞かなくても分かる。

「有り難く頂戴します。妹へのプレゼントになるわ」

エリは屈託なくにっこりして、玩具を皆に見えるように手を伸ばしてくるくると回して見せた。ただ、エリは心の中でどうしたものかなと悩んでいた。悪ガキの男の子たちのいじめやいたずらは何とも思っていなかった。すっかり慣れていたし、命に危険なものではなく、他愛ない遊びに近いと思っていたからである。

エリが悩んでいたのは、どういう反応をすればよいのかという点である。いたずらに対して、美恵ちゃんのように泣くのがよいか、今のように笑い飛ばすのがよいか、そのことに悩んでいたのである。

いじめっ子たちの心理をエリも理解している。彼らは、いじめられた相手が泣いたり、怖がったり、悲しんだり、苦しんだりすれば、いじめた結果に満足する。それを笑い飛ばされたのではいじめた甲斐がないことになる。いじめた側が茶番劇を演じたことになってしまう。

笑い飛ばして平然としていたのでは、いじめがどんどん激化していくのではなかろうか、エリはそれを懸念していたのであった。(今度、ひどいいじめがあったら、その時はオイオイと泣いて見せた方がよいかもしれない)。エリはそう思った。