空き巣事件

インタビュー4岡林恵、斉田の秘書(オンライン)

岡林恵が斉田の秘書になったのはほんの一年半前のことだった。その前は入れ替わり立ち代わり秘書が交代していた時期が五、六年あったらしい。

彼女の話はオンライン追悼会で話したこととほぼ同じであまり新発見はなかった。斉田は恵に自分の流行作家としての旬の時は過ぎたとこぼしていたらしい。売れっ子だった時に比べて講演会の依頼もグッと減った。

以前は地方に出かけて一回話をすると最低で二百万円、うまくいくと五百万円の臨時収入が入ったのに、最近では百万でも頼まれなくなったと自嘲気味に愚痴をこぼした。最近書いている本の題材が若者ではなく、むしろ中高年向きだったことも影響していたのかも知れない。わずかにインタビューの終わりごろに口にしたことが松野の注意を引いた。

「私が先生の秘書になってから一年ほど経った頃に先生の白里のお家に空き巣が入ったんです」

「ほう……それで、斉田さんはその時どこにいたのか?」

「目黒の仕事場におられました」

「奥さんは無事だったんですか?」

「夜中のことだったらしいです。奥様は離れにいらして警察には眠っていて何も気付かなかったっておっしゃったそうです。母屋の方の窓が壊されていて入った跡があったんですが大したものは取られませんでした。ところがあれは先生が亡くなられる三月くらい前のことですが今度は目黒の仕事場に空き巣が入りました。

去年の九月三十日、先生はその日は名古屋で名古屋在住の作家との交流会の為に不在だったんです。私も名古屋について行っていました。警報は鳴ったんですが警備会社の人が駆け付けた時には犯人はもう逃げたあとだったそうです。犯人はその辺の物をぐちゃぐちゃに引っかき回していきました。後片付けが大変だったわ」

「時間的にいつのことでしたか?」

「それが真っ昼間だったんです」

「何か盗られましたか?」

「いいえ、先生は千葉の家の件で懲りて大事な物は隠して外出しました。私たちが留守だってことをどうして犯人は知っていたのかしら?」

「防犯カメラは仕掛けていなかったのですか?」

彼女は首を振って「千葉の方はありませんでした。目黒の仕事場の方は玄関脇に取り付けてありましたが警察で検証したところ犯人の姿は写ってはいましたがピントが甘くて、しかも斜め後ろ向きにしか写っていなくて顔形ははっきりしなかったって言うんです。先生は無茶苦茶に腹を立て警備会社にあんたたちは役立たずだと怒って、それで新しく出来たマンションに引っ越すことになったんです。

そのマンションはコンシエルジュ付きで防犯カメラも警報装置もばっちりだというので。でも品川のマンションに引っ越されてほんのひと月後に事故で亡くなられたのであのマンションにはわずかな間だけしかおられませんでした。あんなことになるなんていまだに本当のこととは信じられません。正直言ってまだショックから立ち直っていないんです、わたし……」