高倉豊は、話の大体は理解出来た。だが、二十六年前と二十年前に起きた事件のことを聞かされたところで、今の段階で何故強行犯捜査2係が捜査に当たるのかという、疑問の説明にはなっていない。彼には依然として、この一連の事件は強行犯捜査2係の事件ではないという思いが残った。

従って兵庫県警と警視庁の合同捜査本部に、任せておけばいいのではないかと高倉豊は考えていた。それと同様に、兵庫県警の強行犯捜査2係から、何故他の誰かではなく、自分が選ばれたのかという疑問も残った。

しかしもちろん、この捜査に協力しないということではない。そんなことをすれば職務規程違反になり、下手をすると首になることだって十分考えられるだろう。それ以外にも、大きな疑問と言う程ではないのだが、ワカタベと話していてちょっとした違和感が芽生えていた。不自然さを感じると言い換えてもいいかも知れない。ただしそれが何であるのか、そのときは分からなかった。

「二十六年前と二十年前の事件について、もっと詳しく知りたいんですけど」

もしもワカタベが言うように、中原純子と古賀と黒沢が強盗団の構成員だとしたら、被害に遭ったホームセンターの経営者やそこの従業員や、彼等の血縁者の中に、毒を盛った犯人が居る可能性だってある。高倉豊の要求は至極まともなものだった。

だがワカタベはそれを受けることはなく、その代わりに「要撃捜査になった」と言った。

「え? しかし古賀と黒沢は昔の犯罪を認めていないと」高倉豊は、今し方ワカタベからそう聞かされたばかりである。要撃捜査とは、犯人が特定出来ない場合に、次に犯行を起こしそうな場所に張り込んで、逮捕する方法のことだが、昔の犯行を認めていない二人から、もう一人の仲間を聞き出せるはずがない。

それなのに何故そんなことになっているのかという疑問と共に、現場の状況などから犯人を割り出してゆき、逮捕に至るという、正攻法捜査にするべきなのではないかと、後もう少しで高倉豊は進言しそうになった。

しかし捜査共助という性質上、出過ぎた真似をして波風立てるのは避けたかった。それ故彼は捜査方針に対する、それ以上の批判は行わなかった。

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※本記事は、2021年8月刊行の書籍『天上に咲く赤い花』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。