【前回の記事を読む】「さいごのいちげき、とうさんいくぞ!」父と息子のお相撲勝負!

(6)嵐の北の嵐

晴れていたま昼の空が、急に暗くなり、はげしい風が吹いてきて、海面が引きつりはじめました。

遠い沖から、屏風のように立ち上がった波がそのまま近づいてきて、ブリの群のま上で、ざぶ〜ん、とくだけます。

目の前にとつぜん青く逆巻く大波が立ち上がり、ブリの大群をかるがると巻き上げます。散り散りバラバラになった群がすばやく隊列をととのえると、すぐまたあとから大波が、

ざぶーん、ざぶ〜ん

真っ白い泡が海面いっぱいにひろがり、とうとう雪が降りはじめました。

遠くの陸地の山や丘がどんどんうす暗い塊になっていき、空と海の境が消えて、いちめん鉛色の世界です。

「おい、ボク、だいじょうぶか? かわいそうに、ほっぺがカチンコだよ。それじゃボク、笑いたくてもわらえないよな。おじさんは鼻が凍ってどっかいっちまった。つかまりな、おじさんに。きょうの海はボクには危険だ、さぁ、はやく、はやく。次のあの波はとてつもなくでっかいぞ!」

「どこにつかまるの? おじさんのからだ、ぷりぷりだよ」

「そうか、じゃ、おじさんのしっぽを、ぎゅっとくわえろ。どんなことがあっても、いいか、ぜったいに弱音を吐くな!」

「ん!」

「じゃ、いくぞ!」

〈おじさん、ほんとはね、ボクとってもこわいんだよぉ〉と叫びたくても、どうすることもできません。坊やはからだごと、グングン強く引かれていくのがおそろしくて、目をとじて胸ビレをはげしく動かしながら、なんとか必死でこらえています。

からだがしんしんと冷えてきました。あまりに冷えてしまったせいか、今度はなぜか、からだがポカポカしてきて、知らず知らずのうちに眠たくなってきます。

そのたびに坊やはハッと気をとりなおし、黄色のおじさんのしっぽをもっとぎゅっとくわえ、自分のしっぽをバタバタさせて。こうしないと、おじさんからも仲間からもプツンと引き離されて、このままひとりぼっちで、波の下の遠いところへ沈んでいってしまいそうだったからです。