夏休み最後の日の夜、聡は卓也に呼び出されて秋川の河川敷に向かっていた。

夜の九時はまだ月明りも朧で、土手から下がったところにある河川敷には光が届かなかった。それでも、川の臭いや夏の終わりの臭いは昼間よりずっと濃く漂っていた。その中で卓也は安田と今井と連れだっていた。

今井隼人はカエルのように手足が伸びて腹だけが膨れていた。対で話すと良い奴なのにどうして卓也と一緒につるんでいるのか分からない。多分一人でいると誰かにいじめられそうな雰囲気がした。安田稔はただの乱暴好きだ。いつも工作用のナイフを持ち歩いて、チラつかせる。何度も教師に取り上げられてはいつの間にかまた手にしていた。ナイフはお守りだと信じていた。

そんな三人が聡を取り巻いていた。

「何だよ、用事って」と、初めに口を開いたのは聡だった。

「お前、ホントに一人で来たのかよ」

「そうだよ」

「良い度胸してんじゃん」

やくざ映画の台詞のようで、聡はまた吹き出しそうになったが今度はこらえた。

「お前、俺たちの仲間になるなら許してやっても良いぞ」

思いがけない卓也の言葉に、聡は聞き返した。

「え? 仲間になるってどういう事?」

聞き返された卓也は少しうろたえた。

「うっせ、許して欲しけりゃ土下座しろ」

聡は馬鹿にしたように「なんだよ、そんな事で呼んだのかよ。俺はお前の仲間にもならないし、土下座もしない」と言った。

聡は卓也たちから何らかの暴力を受けるのではないかと少し恐れていたが、気が抜けた。本当は純太に連絡して一緒に来てもらうつもりだったが、巻き込みたくなくて一人で来た。それに純太はきっと「行くな」と言うに決まっている。

これは、明日の話のネタになるぞと内心思った。その気持ちが、無意識に笑い顔になった。その時、聡の頭にガツンと何かが当たった。それが何なのか聡は直ぐに理解した。卓也のいつもの足蹴りが聡の頭に当たったのだ。

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※本記事は、2022年8月刊行の書籍『見上げれば空はブルー』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。