なぜ巨大物流センターが必要なのか

巨額の資金を保有する物流不動産開発企業が巨大物流センターを建設しても、それに合わせた需要がなければ、空室だらけになってしまいそうだが、それではどうしてこれほどまでに巨大物流センターに対して強い需要があるのだろうか。その背景にはネット通販ビジネスの今日の隆盛が深くからんでくる。

2000年代初頭くらいまでの業界の常識では「物流センターで大型といえば首都圏ならば、3000平方メートルくらいで、京阪神圏ならばその半分程度だろう」といわれていた。しかし、ご存じのように昨今の物流センターは数万平方メートルという規模だし、京阪神圏も首都圏とほとんど差のない巨大物流センターを相次いで竣工させている。

物流センターの大きさは以前とは比較にならないほど大きく膨れ上がってしまったのだが、これはバブルでもなんでもなく、実需で、しかもまだまだ大型物流センターが建設されていく可能性がきわめて高い。その理由は商圏の拡大にある。

一般に小売業の物流センターは商圏の大きさに比例する。前述の「首都圏ならば3000平方メートル、京阪神圏ならばその半分」という業界の相場も消費地の大きさを念頭に置いたものである。そして小売店などが顧客を引きつける地理的範囲を小売商圏、またはたんに商圏という。大都市における商圏は第一次商圏、第二次商圏、第三次商圏に売上比率などを考慮して決められる。

たとえばある都市に大規模ショッピングモールを建設する場合、その建設予定地を第一次商圏、近隣の既存大型スーパー周辺を第二次商圏、古くからある地元商店街を第三次商圏といったように考え、境界線を設定する。

鉄道の線路や河川などが自然の境界線となって、それぞれの商圏を決定することもある。モデル式により、大型店の商圏の範囲、消費者人口の増減、店舗間の競合関係、消費者購買行動の現状、出店予定の大型店の小売引力、近隣商店街への影響などを算出することもできる。

そしてこうした予測をふまえれば出店予定の大型店の売り場面積の適正規模を客観的に判断できることになる。

ところがこれは、あくまでリアル店舗中心の商圏の常識である。首都圏に物流センターを建てて首都圏の消費者のみを相手にすればよいというのならば、3000平方メートルで十分であったかもしれないが、ネット通販の物流センターは立地は首都圏であっても京阪神であっても、全国、あるいは東日本全域とか西日本全域というように、かなり広いエリアを網羅しなければならないのである。

つまり見かけの商圏は首都圏でも実質的な商圏は東日本全域、あるいは全国規模ということになってくるのである。しかも商品在庫は「めったに売れないが注文があったときに『ない』とはいえない商品」、すなわちロングテールである。必然的に物流センターは巨大化を続けていくことになる。

2000年代の初頭にアマゾンジャパンの物流センターが千葉県市川市に完成した。当時、業界ではそのあまりの大きさに度肝を抜かれ、大きな話題となった。しかしその後、アマゾンがさらに大きい物流センターを日本だけでも20拠点以上も開設するとは、だれも予想できなかったことである。

※本記事は、2022年5月刊行の書籍『シン・物流革命』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。