第一章 トップ会談と候補者擁立

武藤が次に狙いを定めたのは北信越ブロックであった。この衆議院議員は過去六回の当選実績があるがその内の四回が比例当選という衆議院議員で、思想信条は保守ながら野党系候補者として選挙を戦ってきたという経緯があり、先の岡山の新人議員の父親とは超党派議員の会で会長と事務局長という関係もあった。

そんな事から前回総選挙を無所属で勝利した上で、与党入りを模索する中で今回与党公認候補の調整により、本人の意に反して比例候補者となった経緯のある人物だった。

与党も与党入りを期待する彼を巧みに使っては、接戦が予想された市長選挙にサプライズ応援させたり、知事選を応援させたりと散々利用されていた事もあり、内心忸怩たるものがあったので武藤の誘いに「渡りに船」とばかりに乗ってきた。

そんな彼との面接試験では、「やっぱり、選挙は小選挙区でないと選挙戦を戦った気がしません、『への役にも立たない』と思いました。」と開口一番に口にした。

「どうりで、当選したのに欲求不満そうな顔だと思ったわ」と武藤が返すと、

「何か、もやもやした感じで今までの選挙と違って素直に当選を喜べません。それに議員バッチに関しても小選挙区当選者に対して金バッチと言うのに対して、比例当選者の議員バッチを銀バッチと揶揄するのにも不快感を覚えます」と比例当選議員としての心境を語って見せた。

「……それってオリンピックの金メダルに対して銀メダルって事?……」と武藤が言うと、「詳しい事は知りませんがそう私は受け止めています」と議員が答えた。

武藤はこの議員が野党系だったことを受け、憲法改正の是非や選択的夫婦別姓問題、象徴天皇制の是非など入念にチェックしていった。そして例の文書滞在交通費の件になった時、

「別に詳細な収支報告を求められる事など全く問題ありません。無所属議員だった時は、政党助成金の分配もありませんから月額一〇〇万円の文書滞在交通費は、地元後援会事務所の借り上げ代や事務員さん達の給与として使っていました。それだけではとても賄いきれませんが、使途が限られていないので有難く使わせて貰っていました」と無所属議員の懐事情を交えて話してくれた。

その上で、「無所属議員になった時、一番辛かったのが人員整理でした。党に所属していた時と実入りが違うので、何人かの私設秘書に辞めて貰ったり、市議会議員や県会議員に転身して貰いました」と無所属議員の悲哀も話してくれた。

「貴方も政治の世界で理不尽さや不公平さを身をもって体験してきたのね、その経験を踏まえて私の党では、人材育成に貴方の力を貸して貰えない?」と問い質すと、

「比例をなくして、中選挙区制にする案には大賛成です! 喜んでお手伝いさせて頂きます」とにこやかな表情で力強く応えてくれた。

これにより北信越ブロックにも小選挙区で戦ってくれる議員を確保したのである。