オーディオ

ウチの旦那はクラシック音楽のファンである。学生時代からそうで、彼のご学友達はほとんど全員クラシックファンだ。結婚した頃は、10万円未満のオーディオセットを置いていた。それが30万円になり、ついには300万円になった。今から40年も前の話だから、今とは物価が全然違う。消費者物価は4倍以上になっているようだ。その代わり、ウチの旦那は酒もタバコもパチンコもやらない。免許は持っているが、車も買ったことがない。趣味はレコード鑑賞だけ。

大阪勤務だった頃、オーディオセットに関心のあったウチの旦那は、(大阪の)日本橋に足繁く通いながらオーディオ機器の音を聴き比べていた。河口無線というお店が気に入ったようで、そこでタンノイ社のメモリーというスピーカー、ラックス社の真空管アンプ、トーレンス社の2本アームのレコードプレーヤーという組み合わせが、良いと思うようになった。ラックスは社名が変わって今は、「ラックスマン」になっているようだ。

しかし、一介のサラリーマンでしかない彼には先立つものがない。まだ30歳くらいだったので給料も安く、蓄えもあまりなかったのだ。彼自身、自分には分不相応な買い物だと思って諦めていたのだが、人を喜ばすのが大好きな私は、

「そんなに欲しいなら、買ったらぁ。次のボーナスを足せば何とかなるんじゃない?」

「え? 本当??? ……うん、ボーナスを足せば何とかなる!」

とウチの旦那。もう嬉しくて夜も眠れない様子だった。

高価なオーディオ機器が狭い団地の一室に運び込まれた。とても良い音。

しかし、この時から、度重なる引っ越しの度にヒヤヒヤしながら運送業者のしてくれることを見守ることになるのだった。そして、今に至るまで一番広くて良い部屋がオーディオルームになる。また、オーディオ機器300万円に伴う出費が凄い。針とカートリッジで20万円なんてざら。ウチの旦那が興味のままに買いあさった新盤、中古のLPレコード、合わせてざっと1500枚。CD150枚。費やしたお金は???

つい最近もレコードラックが壊れたので、新しい物が入り用になった。しかし、今時LPレコード用のラックなんて市販されていない。やむを得ず指物師に(あつら)えてもらうことになった。必要なステンレスの金具まで鋳物の型作りから起こさなければならない。当然、その費用も零が一個多いのじゃないのという額になってしまった。

そもそもは、全て、私の人を喜ばせたい病がこの結果を紡ぎ出してしまったのだ。が、しかしだ、これは私の想像を遙かに超えるものだったよ。

※本記事は、2022年6月刊行の書籍『金魚』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。