「すごく嬉しいよ。きみが俺と同じくらい、彼らのことを好きだなんて信じられない。そのほかに好きなピアニストはいる?」

彼は問うた。

「ジルソン・ペランゼッタ(Gilson Peranzzetta)〔ブラジル人作曲家、ジャズピアニスト〕は知ってる?」

「もちろん知ってるとも!」

「彼が参加した『ブラジリアン・スキャンダル(Brazilian Scandals album)』〔オスカー・カストロネヴィス(Oscar Castro Neves, 1987) 〕のアルバムの曲を聴いたことはある?」

「あるよ。あれもまた伝説的なアルバムだ」

彼は答えた。

「私、あのアルバムの曲はどれも大好きだけど、その中でも〈ペンサンド(Pensando)〉が一番好きなの。あの曲のジルソンのピアノは素晴らしいとしか言いようがないわ」

彼らは驚嘆の目でお互いを見つめた。二人の意見が一致することが信じられなかった。

「まだキース・ジャレットは聴いている?」

彼女は尋ねた。

「ああ、いまだに彼が好きだ。変わらず聴いているよ。二〇〇九年ベルリン版の〈マイ・ソング〉を聴いたことはある? あれはすごくいい。今までに聴いたピアノ曲の中で最高のイントロだと思う。時々自分でも、〈トーキョー・ソロ・パート2d(Tokyo Solo Part2d)〉〔DVD『東京ソロ 2002(TokyoSolo2002)』〕をピアノで弾くんだ」

「どっちも知ってるわ! 〈パート2d〉は、ほんとうに美しい。彼は人間の限界を超えてしまったみたいに思えるわ」二人の間に沈黙が広がった……そして彼らは、長い間、その静寂を破りたくないと思っていた。ようやく彼女が口を開いた。「シャカタクの曲を聴かない? 〈ナイト・バーズ〉はどう?」

ヒョンソクはほほ笑んで言った。

「丘の頂上にたどり着いてから聴こうよ」

ヨンミは車を運転し、丘の頂上へと向かった。頂上に着くと彼女は車を停めた。そこからは大きな湖の素晴らしい景色を見渡すことができた。彼女の手が再生ボタンへ伸びた……。

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※本記事は、2022年4月刊行の書籍『ジャズ・ラヴァーズ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。