エイジは心理学のゼミで、たまたま同じ班になった。教授から出されるお題をメンバーで話し合うのだ。メンバーの中で二年生は私と彼だけだった。自然と話す機会が増えて、交際を申し込まれた。エイジは遊びに慣れているらしく、私を優雅にエスコートした。いわゆるフェミニストでかっこもよかった。

私は他の三人に彼を紹介した。三人は意外だという顔をしたが、「よかったね」と口々に笑顔で言った。純一と真美はほっとした笑顔で。柊は複雑な笑顔で。しかし長くは続かなかった。

エイジはおそろいのVANのトレーナーを買ってくれたり、お洒落なレストランでフルコースをご馳走してくれたりした。車も持っていて、気軽にドライブに連れていってくれた。動作の一つひとつがスマートだった。

四人で過ごしたときには、誰も車がないので、どこに行くにもだらだらと話しながら歩いた。それでもおしゃべりに夢中で、目的地にすぐに着いてしまった気がした。お金がないので、スーパーで安い弁当を買ってきて、真美の家で食べた。パチンコの打ち方、ジョークのある会話、たばこのかっこいいくわえ方。要領のいい講座のさぼり方。

くだらなくって、あまり役に立たない、しかし大学生にとって大事な知識のすべてを私は三人から学んだ。四人でいたときが一番楽しかった。彼女になれなくてもいい。かけがえのない時間だった。あのままがよかった。もう戻らないけど。

いつの間にか頬を涙が流れていることに気づいた。下弦の月が私を見下ろしている。下弦の月は私と似ている。満たされない、満月になれない自信のない月。蒼い月夜だった。私はエイジに別れを告げる決意をした。

琥珀色の風の時代

秋の夕暮れはなぜこうも人恋しくさせるのだろう。木々はそわそわと装い始めている。

大学三年の秋、私はカフェで突然バイトを始めた。真美の下宿の近くの「てんとう虫」という可愛らしい名前のカフェだ。こじんまりして、家族的な雰囲気で、自分に合っていた。「自分の小遣いくらい自分で稼げ」という母親の指令を受けてのことだった。この頃、父親は会社からリストラされていた。姉と私の二人を大学にいかせていることは家計を圧迫していただろう。

私自身も四人と会っている時間も減って、時間をもて余していた。それに何か始めないと、という気持ちに、やっとなり始めていた。一人でも人生を楽しめる自分になりたい。そんな気持ちも抱き始めていた。

【前回の記事を読む】「ごめんね。」の代わりに言ってもらいたかった“ある一言”とは

※本記事は、2022年8月刊行の書籍『一陣の風』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。