中学生活開始

三 いじめの本質

ある日、体育の授業が終わって、男子生徒より遅れて女子生徒と一緒に教室に戻った美和ちゃんが、

「あれっ、社会の教科書がなくなった。次の授業の用意をしておくつもりで体育に行く前に机の上に出しておいたのに。机の中にもない。どうしたんだろう。どうしよう」

美和ちゃんは見た目の印象と違って心の優しい大人しい性格で、大きな声を出したり、叫んだりはしない。その美和ちゃんが泣きべそをかきそうになっている。

「誰かの引き出しに間違えて入っているんじゃないか」

鈴木連君が言い出した。エリが見ると連君はニヤニヤと笑った。(おかしいな)とエリは思う。エリが自分の机の中を調べてみると、一番底に自分のではない社会の教科書が入っているではないか。裏表紙を見ると、相田美和と名前が書かれている。

「美和ちゃん、あったよ。私の机の中に入っていた。でも私が入れたんじゃない。誰かが机を間違えたのか、わざとやったのか、わからないけど。ハイ」

エリはそう言って教科書を美和ちゃんに手渡した。美和ちゃんもエリの仕業だとは思っていない。ニヤニヤしている何人かの男子生徒の仕業だろうということは分かっている。分かっていても根がやさしい美和ちゃんは先生に訴えたりはしない。

「ありがとう。見つかって良かったわ」

美和ちゃんはエリににっこりした。悪ガキ三人組は、ひそひそと

「マドンナの泣きべそ顔が見られて良かったな」と言っていた。

彼らは、美和ちゃんにマドンナと言うあだ名をつけていたのである。だが、さすがに本人に向かってマドンナと呼ぶ勇気はないのであった。彼らの本心は、美和ちゃんに嫌われたくなかったのだ。

二、三日して理科の授業が終わって理科室から戻り、エリが机の中のエンピツケースを開けてみると、入っているはずのエンピツが一本も無くなっていた。

「もう、今度は私のエンピツが一本も無くなっている。理科室に持っていったのがあるから、すぐ困るわけじゃないけど、昨日買ったばかりのも入っていたのに。どうしよう」

エリが、怪しいなと思って、悪ガキ三人組の方を見ると、三人とも下を向いてニタニタと楽しんでいるようである。(間違いなく彼らの仕業だな)とエリは確信したが、問い詰めることはしなかった。きっとどこからか出てくるに違いないと思ったから。

「エリちゃん、これらのエンピツがエリちゃんのじゃないの。私の筆入れに入っていたの。私はいつもエンピツを二本しか入れてないんだけれど、一杯に入ってたわ。私が盗ったんじゃないけど、また誰かにやられたわね」

可憐ちゃんがそう言いながら、エリのエンピツ五本を手渡した。

「おいおい、エンピツは、エンピツのところに集まるもんだろうが。類は友を呼ぶと言うじゃないか。エンピツがエンピツを二本しか持っていないのは不自然だろうが」

健一君が皆に聞こえるようにそう言って、へらへらと笑った。男子生徒は全員がつられて笑ったが、女子生徒はむっとして三人を睨んでいた。