さあて、皆の衆。いいかね。ここにはの、かのイエス・キリストがの、最後の晩餐にじゃね、十二人の弟子たちに、お主たちも知っての通り、酒を振るまわれたろう、ワインよ、ワインを振るまわれたろう、地酒のナザレ・ワイン。それを弟子の一人一人に振るまい、これを、わしの血として、飲んでたもれと言ったとかいう話じゃ。

いやあ、いい話ではないか。涙なくして語れぬほどのいい話だとは思わんか。そこでじゃ。まさにそのナザレ・ワイン。イエスさんとその弟子たちが飲み残した最後のワインが、今、ここに一本残っておるのじゃ。まさに二千年前の、年代物中の年代物。古酒中の古酒、これぞまさに今世紀最大の発見。ナザレ旧市街の遺跡発掘に伴い、その土中から掘り出された一本じゃね。名付けてヴィーノ・デ・シャラクセー。ロマネ・コンティなど足下にも及ばん優れもの、奇跡ものでござるぞ。さあ、皆の衆、それがここにある。このわしの店にあるのじゃ。これじゃ、これじゃ」

そう言いつつ、店の布袋おやじは手元に並んだいろんな瓶の中から、一本取り出して、右手をもって、高々と目の前に掲げてみせた。それは普通のワインの瓶ではなくて、つまりはガラス製ではなく素焼きの土器のごときもので、当時のテラコッタ製と見るべく、下側半分がずんぐりと丸く、上半分が急に細く鶴首のようになっている。

一番上に両耳の取っ手があり、それは何か二匹の小さい竜を(かたど)っているらしく、コルクの蓋がついている。至るところにまだ泥が付着していて、もちろん、ラベルも何もなく、表面にかすかながら鋭い刃物か何かで文字のごときものが刻まれてあった。たしか、それはラテン文字であろう。

SHARAXÉEと書かれてあるようであった。

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