大体にして、今は何年の何月なのかとテレビの上に目をやると、テレビの上に置かれたカレンダーは一九九八年五月になっていた。

『やはり二十年前の世界か』俺はこの異常な状況を、無理矢理自分に納得させた。

この当時のテレビは、現在の液晶型と違って、ブラウン管という形式が一般的だった。チャンネルも、現在の一と二は公共放送、四・五・六・七・八・九が民放ではなく、一と三が公共放送になっていて、四・六・八・十・十二チャンネルが民放だった。

ゲームの接続は二チャンネルにしたんだよな。

試しに十二チャンネルを選択してみると、ちゃんと映った。

この当時の放送電波はアナログ式と言い、現在のデジタル放送とは異なっていた。アナログ式放送では、十二チャンネルが映るのは当然なのだが、それでも今だに心から信じることが出来ず、俺は暫し呆然と立ちすくんでいた。

それから三か月。

いまだに心底、この状況を受け入れられてはおらず、内心穏やかではないが、自分が置かれている状況に、少しずつ馴染み始めていた。

この頃から何となく、こちらの世界に来る前の世界との違いを観察出来るようになっていたのだ。

日本初の火星探査機の打ち上げに成功。史上初の兄弟横綱誕生。和歌山毒物混入カレー事件など、社会で起きている大きな出来事は、良くも悪くも前の世界と同じである。

この当時勤めていた会社は、プリント基板を作る会社の下請けで、プリント基板を作る時に使用するネガフィルムを作っていた。従業員数は八人で、社長と、社長の奥さんが専務という、いわゆる零細企業だが、少人数の会社ならではの、家庭的な雰囲気がお気に入りだった。

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※本記事は、2022年9月刊行の書籍『ファンタズマ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。