5 ウイルスは無生物なのだろうか

[質問]「ウイルスって、どんな生き物なのですか、それとも無生物なのですか」

当初、ウイルスは細菌より極めて小さい生き物と考えられ、超微生物と見なされていました。ところが、1935年に、ロックフェラー医学研究所のスタンレーが、タバコの葉のしぼり汁から得たタバコモザイクウイルスを白い針状結晶にすることに成功し、この結晶を水に溶かしてタバコの葉に塗ってみたら、タバコはモザイク病にかかったのです。これを学会誌に発表したところ、世界中の科学者たちは、

「生物と思われるウイルスが、無生物状態の結晶になるとは、如何なることか」

と、非常に驚いて、ウイルスは、生物なのか無生物なのかという大論争がおこりました。

スタンレーは、このウイルス結晶化の功績に対して1946年にノーベル化学賞を授与されました。結晶といっても、鉱物などの無機化合物の結晶と異なり、個体のウイルスが多数集合して規則的に配列しているものなのです。

だが、外見はまさしく無生物の結晶で、この結晶状態では生活反応を示さないので、結晶のまま保存できるのです。その後、ポリオウイルスなど様々なウイルスを結晶化できることが発表されました(図9)。