【前回の記事を読む】アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』は1日で録音され、ジョン・レノンは風邪をひいていた…

第2章 Please Please Me

『シー・ラヴズ・ユー』

“ビートルズと言えば“この曲を思い浮かべる人も多いと思います。曲のタイトルをサビで連呼するのは、いち早く覚えてもらえるという考えに加え、盛り上がりもあり、初期のビートルズに多く見られる手法なのです。この曲もジョンとポールのツイン・ボーカル。曲に乗せ叫びながら「イエー・イエー・イエー」と歌い、当時のポップス界では珍しく「シー(She)」という第三者を登場させるなど、当時としては斬新すぎたこの発想は「若者に受け入れられ、大人達に嫌われる」という結果を招き“ビートルズは子供向けのバンド”というイメージを強くさせてしまいます。

スマホしかり、ファッションしかり、老化して歳を取るにつれ、新しいものを受け入れづらくなるのはいつの時代も一緒ですが、この曲は、イギリスのポップ・ミュージック界“初のミリオン・ヒット”を記録するのでした。

ジョンは、

「三十歳になったら『シー・ラヴズ・ユー』はもう歌わないよ」(赤盤収録済)

そう発言しています。ジョン自体も子供向けな曲という認識があったのかもしれませんね。

ビートルズのデビュー当時、レコーディングは二トラックで行われていました。それはギターはギター、ヴォーカルはヴォーカルというように、録音を二つに分けることです。けれどビートルズは一トラック録音、みんなが揃って演奏する“ライブ録音”を主体としていたのです。そのメリットとしては、熱量や勢いが伝わりやすいということ。デメリットとしては、失敗すると最初から録り直しになってしまうのです。―頑張れジョージ!―っていう思いです(よく演奏を間違えていたようなので)。

実際ミスしたまま収録されている曲もいくつかあるようで、ポールは

「マーティンが気付かなければそれがビートルズの正規バージョンになる」、

そう語っています。一年目にしてイギリスを席巻したこの年、イギリス王室が毎年主催している、ロイヤルバラエティショーに招かれ、

「安い席の方は拍手を、それ以外の方は宝石をジャラジャラ鳴らしてください」

ジョンの有名なブラック・ジョークです。ポップ・ミュージックをやりながらブラック・ジョークを言う。このミスマッチも、ビートルズ人気の一つなのです。

一例とし有名なのは、駐米大使館を訪れた際のやりとり。

「あなたがジョンですね」

大使がそう言うと、ジョンはジョージを指差しながら、

「僕はチャーリーです。彼がジョンです」

ジョージはリンゴを指差し、

「僕はフランクです。そこに居るのがジョンです」

するとリンゴは沈黙の大使に向かって

「ところで……あんた誰?」

ブラック・ジョークとかいう問題ではなく、ただの悪ガキって感じですね。この頃はこのようなやんちゃなジョークをよく言っていた四人でしたが、中期、そして後期にかけ、音の変化と共に、発言もアーティスティックになっていきます。

―まずアルバムを一枚、だいぶ淡白に簡単な説明をしました。それはこの頃のビートルズの演奏や曲作りに比例しています。中期・後期と進むにつれ、曲作りや四人の思考、そして関係性なども含め色々と複雑になっていくので、徐々にドラマチックな展開へ変わっていきます―。