第一楽章 あなたの瞳が教えてくれた記憶

Ⅱ「ありがとう」を伝えたくて

その後も兄は、妹の死は自分のせいだと思い込み、心の底から笑える日を味わう人生とはほど遠いものとなってしまったようです。たったひとりの妹を失ったことで、兄の心にぽっかりと空いてしまった穴はあまりにも大きすぎ、それを埋めることが容易にできなかったようでした。

小さい頃からのふたりの間に育まれた絆は、とても強いものだったとうかがえます。両親と過ごした時間があまりにも短かったがために、常に寄り添うようにして生きてきた兄と妹。妹の兄に対しての愛は、深すぎるほどに純粋で美しいエネルギーを放っていました。どんな兄でも許し、受け入れていた兄への愛は、心底信頼しきっていた証になるでしょうか。

兄と妹のふたりは、その後も生まれ変わりを繰り返したのではないかと思います。妹は、お兄ちゃんに言えなかった言葉をどうしても伝えたかった。謝るばかりでお礼を言えなかったことが、本当に心残りでした。なんとしても伝えたい! 大好きだったお兄ちゃんにちゃんとお礼を言わなきゃ! この心残りだった強い想いを(かな)えるときが、ようやく巡ってきたようです。

「お兄ちゃん、ありがとう。あのときは、最後の最期までお世話になりっぱなしで、ごめんねとしか言えなかったのだけれど、今こうして、お兄ちゃんにやっと会えて、『ありがとう』が言えました。本当に伝えられてよかったです。ホントにすっきりしました」

「そんなことが、あったんですか……」

突拍子もないことを次から次へと聞かされたお兄ちゃん、ちょっとリアクションに困ったかもしれません。そうですよね。いきなり言われても困惑してしまいますよね。自分でも不思議すぎて、信じられないでいたワケですけど。どうしても言葉にしないと、永遠に報われなさそうな気がして……。

「最後まで話を聞いてくださって、ありがとうございます!」