「致死量はリコリンで十グラムでしたよね」

「その通りだ。よく知ってるな。他にもガランタミンという毒の成分があるらしいが」 

「三人の接点は?」

早く話を聞きたいという思いから、高倉豊は急かすような言い方をしてしまった。人によっては無礼だと感じて、気を悪くすることがあるかも知れない。だがワカタベは意に介さなかった。つまりそのまま話を続けた。 

「古賀と中原純子は高校時代の同級生だった。それが分かった時点でもしやと思い、ここの捜査員を赤穂まで行かせて、交代で中原純子の見張りをしていた制服の何人かに、写真を見せて確認を取った。そうしたら古賀と黒沢は別々の日に見舞いに来ていた。黒沢と中原純子、男二人・黒沢と古賀の接点は今のところ不明だ」 

「それで、その、何故この事件の捜査をすることに? つまりこの事件は─」

「我々の事件ではないと言いたいんだろう」

ワカタベは高倉豊に最後まで言わせなかった。

「だがな、二十六年前神奈川県で起きて未解決の、ホームセンターばかりを狙った連続強盗事件のうちの一件と、二十年前に東京のホームセンターの金庫が破られた事件が、中原純子の勤めていたホームセンターだと聞けば、その意見も変わるだろう」

一人の人間が三度も凶悪な犯罪に遭遇すること【中原純子自身が殺されそうになった事件も含めると】は先ずない。今ワカタベから聞かされた話から、中原純子が強盗団の構成員に違いないと確信していることは、高倉豊にもよく分かった。

だが未解決事件の捜査とは言っても、もう既に公訴時効が成立してしまっている。それとも被疑者と考えている者達の、時効の中断の事実が認められるとでもいうのだろうか。それに二度目に中原純子が事件に遭遇した時点【二十年前の事件だ】で、疑惑の目を彼女に向けなかったのだろうか。そのようなことを、高倉豊は率直にワカタベに話した。

するとワカタベは、今回中原純子が絞殺されそうになったときに初めて、彼女に対して疑いを持ったのだと断ってから、二十六年前の捜査記録を調べてみたら、中原純子が勤めていたホームセンターが、三人組の強盗団に襲われていたことが分かったのだと言った。

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※本記事は、2021年8月刊行の書籍『天上に咲く赤い花』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。