この街に

短歌に興味を持つ、ひとりっ子の美子には趣味に油絵を描いているような青年こそ結婚相手に相応しいのではないかと判断した両親は、喜んでふたりの結婚を承諾してくれた。

ところが、その一方、彼の両親は美子が、ひとりっ子であることに最初は反対したようであった。しかし、彼の言い分があまりにも強かったため、賛成してくれたことを後になって美子は知ることになった。彼の家族が、ふたりの結婚に反対したことを知らされても美子は驚くことはなく、むしろ、それが当然だとさえ思った。美子の心の中では、ごく自然に以前から、

「わたしと結婚する人は誰であれ、当人よりも家族の反対があるはずだ」

という思いが芽生えていたからであった。そのことより、本当のことを教えてくれた夫となった彼に、

「この人は優しくて、真面目な性格だけではなく正直な人だ」

と、かえって好感を持った。美子は誰に教えてもらわなくとも、

「ひとりっ子は、きっと甘やかされて育てられているであろうと、ほかの誰もが思っているのは間違いない。それに結婚後は美子の家を継がなければならないことを少なからず心配しているのは当然だ」

ということは人一倍知っていて、理解出来ると思っていた。結婚後は田舎に住むよりも、この地に住もうと決めたのは、遠方から電車通勤するより時間のロスがなく、生活にゆとりが出来るという彼の発案であった。しかし、それよりも仕事の傍ら、好きな絵筆を持つ時間が多くとれるという、最も大きな願望が含まれていることを、いち早く見抜いた美子は心の中で、

「そうです。それでいいのです。わたしも大賛成です」

と、賛同の拍手を送った。