第四章 同情と同苦の違い

そうこうしているうちに、十月も下旬に近づいてきた。私たちの本当の旅はこれからである。今倒れる訳にはいかない。心身のボルテージは最高潮! あとは体調だけが、お互い気がかりであった。もう後戻りはできない。

ロバートとの約束を果たし、井戸の渾身(こんしん)の激励に報いるためにも、私は負ける訳にはいかない。そう思うと勇気がまたふつふつと湧いてくるのを覚えた。私はロバートに会えれば、もう倒れてもいい! だからあともう少しがんばってくれと、自分自身を奮い立たせるのであった。さあ明日は出発だ!

十月三十日の夜、私はロバートのことを考えて眠れなかった。初めて会えるまで、二十四時間とちょっと。もう待ち切れない! もしかしたらロバートも、私を空想上の人間だと思っているのではないか。そう勝手に想像しながら、心の中のロバートに叫んだ。

「ロバート、もう少しだよ! もう僕たちはバーチャルリアリティー(仮想現実)の人間同士じゃない! だってもう明日には、握手しているのだからね!」

私の心の友、ロバートもきっと現地でそう(うなず)いているに違いない! さあ行こう! いざ出発進行!

第五章 歓迎

二〇一四年十月三十一日の早朝、私は井戸にモーニングコールを何度もしていたが、彼はなかなか電話に出てくれなかった。その前日、仕事が終わった井戸は、事務作業を深夜までしていたのである。そして三十分後、井戸からの電話がようやくあった。

「遅いですよ、井戸さん! もう一人で行こうかと思っていましたよ!」

こう私が切り出すと、彼は申し訳なさそうに答えた。

「ごめんなさい、田中さん。昨夜深夜まで事務作業で、三時間しか寝てないです。飛行機の中で寝ます。とりあえず今から田中さんを迎えに行きます。待っていて下さい」

こう言って彼は電話を切った。

午前十一時、まだこの時期でも暑く感じられる羽田空港を離陸する。日本から北アイルランドへは、直行便はない。ロンドンを経由して、ベルファストまで約十七時間の旅である。井戸は機内で熟睡していた。私は寝ようにも寝られなかった。長時間フライトの後、ロンドンに到着したのは現地時間の夕方であった。