第2章 あなたの心は健康ですか?

② 「ねばならない」思考からの脱出

スマホの充電と同じように心の物差しにも気を配っていますか

心の健康について無頓着だった私は、心の病に罹る人は、特別な人だと思っていたので、まさか自分が、日々のストレスが原因で心身に異常を来すとは、全く、考えもしませんでした。2章の冒頭にも書きましたが、「心は健康ですか」の問いには、迷わず「はい」と答えられるつもりでいました。ところが、自ら体調を崩すという思いがけない体験をして、心の健康は、誰でも、日常生活での些細な出来事の積み重ねによって、知らず知らずのうちに蝕まれていることに気づかされました。

このように、心の健康を蝕む日常的な些細な出来事のことを、ストレス学者のラザルスは「デイリーハッスルズ(日常苛立ち事)」と呼びました。実は、この「些細な」出来事であるという点が、要注意なのです。些細なことだと思ってそのままにしていると、私の場合がそうであったように、気づけばオーバーフローしてしまい、取り返しがつかなくなっている場合があります。

たとえば、このような状態を、コップの中に、水道の蛇口から水滴がポタポタと漏れ落ちて溜まっていく様子に例えることがあります。水滴はデイリーハッスルズ、つまり日々経験する些細なストレスです。コップはストレスという水滴を受けとめることができる人の心だとします。水滴ですから、水はほんの少しずつしかコップには溜まっていきません。

水滴は気づかない程の量しか落ちてきませんが、それでも、水かさは確実に増していきます。するとある時、突然、水がコップから溢れ出すのに気づいて慌ててしまいますが、時すでに遅し、です。

蛇口を閉める方法を知っていれば、まだ良いのですが、どうしたらよいかが分からない人もいて、そうなるとオーバーフローし続けます。これが、心身の病として発症した状態と言えるでしょう。一回の水滴量が、わずかだからといって過信してはいけません。

むしろ、この現象は、一回でわずかしか水かさが増えないからこそ、多くの人は、押し寄せる危険に、気づくことができないということを教えてくれています。あなたの心は健康ですか、と尋ねられたとき、水が、コップから溢れ出ていないことを確認して、「健康です」と答える人もいれば、溢れ出ていることに気づかないまま安易に、「健康です」と答える人もいるでしょう。

つまり、後者は、かつての私ですね、それは、非常に危険です。私たちは、日頃から車のガソリンメーターや、スマホの充電を絶えず気にしています。なのに、なぜ心のコップの目盛には気を留めようとしないのでしょうか。

人それぞれ、心のコップの許容量には多少があります。当然、心の物差しも異なります。大切なことは、あなた自身の心の物差しに気を配って、危険を、正確かつ迅速に判断できることが、心の健康予防につながると言えるでしょう。仕事が立て込んでいたり、仕事と育児の両立で、日常生活をやり過ごす日々に、いっぱいいっぱいになっていなければいいのですが。

※本記事は、2020年3月刊行の書籍『Over Thirty クライシス』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。