第一話 ペニシリン

「みなさん。全員集まりましたか」

「はい」

「それではお女郎さんたちが瘡毒や淋病を持っているか調べさせてもらいます」

「どうやって診るでありんす」

「今お見せします。では向かって右側のお女郎さん。こちらにお願いします」

「あっしでありんすか」

「はい」

「なにをやりんす」

「お座りください」

「まず、源氏名は」

「珠美でありんす」

「奇麗な名前ですね」

「うれしゅうござんす」

「ではお聞きします」

「どうぞでありんす」

「瘡毒は持っていますか」

「聞かれなくても、全員持っているでありんす」

「そうですか。では、顔から診ますね」

「どうぞでありんす」

「うぅん……顔にはまだ出来物は出ていませんね」

珠美はこくんとうなずいた。

「先生、それで分かるのですか」と元締が聞いた。

「はい。瘡毒にかかると必ず顔に腫れものが出来ますから、診れば分かるのですよ」

「なるほどー」

「では瘡毒の進行を診ますので、着物を脱いでください」

「今、ここで」

「そうです」

「全部脱ぐんでありんすか」

「上だけ脱いでください」

「分かったでありんす」

「お店に出て何日になりますか」

「昨日出たばかりでありんす」

「それで出ていないのか」

「どうでござんすか」

「潜伏期間で腫物は出ていないですね」

「そうでありんすか」

「それとおしっこをした時に痛みや、痒みはありますか」

珠美は、いいえと首を横に振った。

「そうですか」

「おみよさん。記録をお願いします」

「はい」

「名前と日付を入れてくださいね」

「はい」

「では、潜伏期間なので瘡毒ありと書いてください」

「はい」

「それと淋病は無しにしてください」

「はい」

「では、ペニシリンを注射しますので、布団に寝てお尻を出してください」

珠美は、恥ずかしがってためらっている。

「腕だと痛いですから、あまり痛みの感じないお尻がいいのですよ」

その場にいる女郎たちが、くすくす笑った。

「分かったでありんす」

“ケツも小さいし、オッパイも小さい。それに栄養失調であばらが浮いている。これでは年季が明けるまで、生きる事は出来ないな。可哀想に―”

「消毒するので、ちょっとばかり冷たいですよ」

「はい」

「では、針を刺しますね。チクリとしますので我慢してください」

「痛い」

「大丈夫ですか」

「はい」

「血止めを貼りますので自然に剝がれるまで、そのままにしておいてください」

「はい」

「これで終わりです」