ボールが一つ

冬の枯れ葉色のさびしい庭にボールが一つ

ああ うちの犬たちが遊んだボールだ

遊んでくれる相手をなくしたボールが一つ

初めて飼った柴犬の雑種「チャック」

まだ離乳しない子犬をもらった

頑固な夫さえかわいがった

やがてゴールデンレトリバーの「レディー」が来た

神戸の震災で捨てられたのか迷子になったのか

痩せて汚れた姿で駅をうろついていて保護された

友人から頼まれうちにやってきた

すぐチャックと仲良しになり兄と妹になった

チャックが十四歳でガンが見つかり入院させた

入院のショックでたった一日の入院で死んだ

レディーが一匹ぽっちになった

間なしにゴルデンレトリバーの「ハチ」が来た

店で売れ残って成長しもうショーケースには入らず

ゲージの中で客に愛想を振りまいていた

娘が売れ残った犬の末路を切々と訴えたので買ってきた

レディーともすぐ仲良くなり姉弟になった

レディーが十二歳(推定) の時散歩中に突然倒れた

心不全だった 四頭飼った中で一番賢い犬だったが

捨てられた環境からか家族以外は受け入れなかった

家族と理解したら田舎の両親でも尾を振った

ハチが一匹ぽっちになった

数年してゴールデンラブラドールの「ロク」が来た

他都市で人をケガさせたと飼い主が保健所に連れてきた

ケガをしたほうの彼女が救済に奔走した

新しい飼い主が見つからず回り回って私に依頼が来た

「OK」してもらえなければ休み明けの月曜日に処分だと言う

金曜日の電話でもう「OK」しかない

名前もなかった オスなので「ハチ」の前の「ロク」にした

推定年齢五歳なのでハチに弟ができた

すぐ仲良し兄弟になり二匹は折り重なるように眠った

狭い庭なので度々田舎に連れて行った

ハチはお犬良しの顔だがものすごいハンターだ

ブドウ園でシカとデッドヒート数回

アナグマと格闘して捕まえてきたこともある

十三歳で歯茎の悪性黒色腫になり二回の手術に抗がん剤

一年半闘病したが「痛い」と言えないので最後は決断した

十四歳半 私のポロシャツを着せてやり

「もういいよ いこうね」

ロクが一匹ぽっちになった

ハチと違い人につく性格でなんにもハントしないし

四十キロの大きな体で

私が作業で動くたびについて回っていた

うちに来て十一年 推定年齢十六歳

見かけは変わらないが年を取ってきた

耳が聞こえず目は白内障で見えず

においだけでクンクンと探す

散歩してても見えないから溝にはまったり

人間と同じように老衰していった

春のころ

一晩の患いで朝起きると呼吸が止まっていた

四匹の犬たちが遊んだボールが

遊び相手をなくし庭に転がっている

庭で寂しく転がっている