カツカツ、と音がする。病棟は静かで音が響きやすいのか、ベッドにいると廊下を歩く靴の音がよく聞こえる。特に、お昼ご飯を終えたこの時間は午後の面会にくる人が多くて、廊下にはいろいろな足音が響く。でも、これはママじゃない。そう思うと靴の音は、私の部屋から遠のいていった。

「あ、来た」

これだ、と分かった。10年も一緒にいると、分かるものなのかもしれない。あるいは、ずっと待っている音だから、耳が覚えているのかもしれない。

「おかえりー」

「おまたせ、ご飯食べた?」

食べたよ、とお昼のメニューをあげていると、母はバッグから大きめの封筒を取り出した。

「これ、先生が家に届けてくれたよ」

何枚もの紙が入っていそうなそれは、ずっしりと重い。封を開けると、束ねられた手紙が顔を出した。

「みんなからだ!」

4年3組のみんなより、と書かれている手紙には、1日では読み切れないくらい、一人一人からたくさんのメッセージが書いてあった。

『体調はだいじょうぶ? 歩けるようになったんだね』『しゅじゅつを2回もしたときいて、ひめかちゃんはすごいと思いました』『今は学校で、インフルエンザがはやっているよ』『もうすぐ漢字テストがあるので、頑張って勉強しています』『ひめかちゃんが帰ってくる日を、3組みんなでまってるね』

ページをめくるたびに、クラスメイトの顔が頭に浮かぶ。早く退院して、学校に行きたい。病室のベッドの上に、みんなの声が聞こえた気がした。

※本記事は、2022年3月刊行の書籍『キミがいるから私は』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。