黒田節

古より酒にまつわるエピソードとなると、数限りなくあげることができますね。その多くは酒の席に絡む失敗談ということになりましょうが、どういうわけかわが国では、節度ある飲酒を心がけようとする常識人を冷ややかに見下す風潮がありました。

たとえしこたま飲んでへべれけに酔っ払ったあげくに、致命的な失敗を犯したとしても、「酒のうえのことではないか。水に流してやれ」などと、ことを荒立てようとしないできたのが日本人というものでした。

時代劇などでは、上座に座った殿様が「今宵は無礼講じゃ。存分に過ごすがよい」などと、上機嫌で言う酒宴のシーンをよく目にします。下座に居並ぶ家臣たちが「ははっ」と声を揃えて頭を下げながら、左右の同僚とニヤリと目を合わせるというシーンですよ。

酒を飲む前から、酒を飲んで無礼をはたらいても許すというのですから、このような飲酒の文化は外国人には理解しがたいのではないでしょうか。わが国だけに見られるユニークな文化ではないかと、私などは一人でニヤリとほくそ笑んでいます。しかし、酒を飲んだうえのこととはいえ、こんな大失敗をした有名な殿様が一人いますね。

酒は呑め呑め呑むならば♪ 日の本一のこの槍を♪ 呑みとるほどに呑むならば♪ これぞまことの黒田武士♪

日本人であれば、たとえ酒を飲まぬ人であっても、福岡県に伝わる民謡・黒田節のこの文句を知らぬ人はいないでしょう。 失敗した殿様とは、大酒飲みで名をはせた戦国武将・福島正則。確か大河ドラマでも取り上げられていたと記憶しています。

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※本記事は、2022年8月刊行の書籍『酒とそばと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。