普通ならばこんな青年の非常識な言葉は、誰も相手にしなかっただろうが、事情が事情なだけに信じない者はいなかった。

夜のとばりが降りてきて、星もまたたき始めた。誰も無言で椅子に座っている。

やがてパトカーのサイレンが聞こえ、少しして三台のパトカーがグリーンベルト横に止まった。警察官が五、六名車から降りてきて、赤石と名乗った男性に敬礼した。

三十歳くらいの警察官が言った。

「皆さん、お疲れのところ申し訳ありませんが、これは重大な事件なので、一人ずつお話を聞かせていただきたいと思います。現場検証が終わったら、皆さんはパトカーに乗っていただいて、南警察署に移動しますからよろしくお願いいたします」

私たちは大変なショックと疲れでつらいので、もう帰らせてもらいたかったが、さすがにそうとは言い出せない。

その後警察署では長時間調べられたが、赤石という人は結構な役職についていたらしく、特に嫌疑をかけられるようなことはなかった。しかも一緒に取り調べに付いてくれてフォローもしてくれた。

私たちは取り調べの刑事から、「今日はもう帰って結構です。しかし、またお話をお聞きしなければならないかもしれません。そのときはよろしくお願いします」と言われ、ようやく解放された。

後日、この事件で八人の死者が出たこと、死因は全員心臓麻痺だったことが、マスコミにより知らされた。当初は結構、テレビ、週刊誌で騒がれたものだった。ところで帰ろうとした私と千穂のほうに、除霊した青年が小走りに近付いてくる。何だろうと思っていると、こう言った。

「あなた、いろいろ大変でしたね。でもすぐいい仕事が決まりますよ」

妙なことを言う男だと思ったが、何かうれしい気もした。そして翌日、竹田専務から採用の連絡が来た。

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※本記事は、2022年8月刊行の書籍『除霊堂奇譚』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。