上野先生と雑談する中で短冊の話題になった。『成績がよくなりますように』と願ったことを話したのはいいのだが、願いは天の神様に向けてするもの、と勘違いを語ってしまったのは恥ずかしいことこのうえない(正しくは織姫に向けて、らしい)。

「嬉しくなった神様が玲人に味方してくれるかもよ?」という慰めになっていない慰めをされ、みっともない気持ちにもなった。

(それにしても七七年ごとの七月七日……。天の神様は七って数字に恨みがあるのか?)

短冊から連想した”天罰と催涙雨”。面倒な仕事を頼まれたけど、断らなかった自分が悪いと玲人は割り切る。執筆する記事に手を抜く気はないが、新聞の掲載日が七月七日を過ぎるため、『”天罰と催涙雨”はただの都市伝説でした』というつまらない締めになることは容易に想像できた。

そうして短冊の横を抜けた玲人は、寄り道せずに帰宅する。涼しげに吹いた夕刻の風が、背後の笹の葉をかさかさと揺らした。帰宅後は入浴、食事をすませ、勉強に取り掛かった玲人。ノルマ四時間の勉強を終えた頃には、すでに午後十一時を過ぎていた。

名高い海外リーグの野球、サッカー、バスケの試合結果を確認し、スマホのパズルゲームで見ず知らずの相手に完勝してから、玲人はベッドに横たわる。一日七時間以上の睡眠を取らなければ満足できないため、この時間に床に就くことが日課だ。

目をつむればおよそ数分で眠りに落ちる。……のが普段だけれど、今日に限ってはつむった目を開けて、「あれはびっくりしたな、……僕の不注意だったか。あーでも、倉科さんにも過失があるって」

接触した唇は柔らかかった。感触が今でも唇に残る。怒られた直後は勢い余って反論してしまったが、─彼女の初めてを奪ってしまった─、そう考えたら、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。

「気にするな、あれは事故だ。しばらくからかわれるだろうけど、いつかは風化するはず」

倉科さんよりも、今は大事なことがある。そこに気を取られるなと自らに言い聞かせ、玲人は目を閉じて意識を落ち着かせた。それから十数分が経過した頃、奏空のことで満ちていた意識は波が引くように消失してゆく。

やがて、完全な眠りへとついた……。はずだった。

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※本記事は、2022年6月刊行の書籍『恋終わりの雨が7の日に降る確率』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。