【前回の記事を読む】失敗を許さない日本人…間違った非難でも「毅然とした態度を取れない」理由…

(16)間違ったルール下での経済

この様な間違ったコスト削減に走った理由は、隣国に人件費が安い国が有り、そして日本の企業が積極的に工場を海外に移転した事にある。隣国であるがために輸送費も比較的安く、そして愚かな事に日本の技術を積極的に提供した。結果、日本の製造業は半分ほど崩壊し、隣国の経済力が一気に向上してしまった。

似たような設備で製品を作れば、人件費が格段に低い国で作った方が安いに決まっている。ここに日本人の国家観の無さが露呈している。隣国の製品は品質が悪いにも拘わらず、購入担当者は価格だけで比較する事にも問題がある。売る方も品質等の違いをアピールすれば良いのだが、営業努力が足りない事等から購入先の言いなりになってしまっている。

また、日本製の過剰品質と過剰機能にも問題がある。その結果が非正規雇用の増加であるが、これらの問題点の根本原因は、既存の経済学にある。何が間違っているかと云うと、自由貿易を推進してきた今までの経済学に大きな問題がある。

自由貿易を推進している経済学は、企業が存続し、発展する上ではメリットがあるが、国家にとってはデメリットが多い。随分前だが、企業が強大化する中で、国家の理論と企業の理論が相反する事について議論された事が有った。しかしIT企業が巨大化していく中で、その様な議論は無くなっていった。しかし今は、もう一度国家の論理と企業の論理が相反している事を議論する必要がある。

これらの問題点に対する処方については後続の章で詳しく述べるが、トランプ前大統領がその解決策の一つを実施した。それはアメリカで製造する製品を優遇する事である。そのお陰でアメリカの経済は良くなり、そしてアメリカ国民、特に低賃金層が潤った事を知る必要がある。

(17)伸びないGDPと個人の収入

GDPや個人の年収をみても、ここ30年程はほぼ横ばいである。日本が足踏みしている間に他の先進国から離され、中進国には追いつかれている状況である。

IT関連ではかつては安い労働を求めて中国に発注していたが、今は日本のIT関連の賃金の方が安いので中国から日本に発注が来る場合もある。IT関連の様に海外と直接ビジネスを行っている業界では、日本の賃金は既に二流以下になっている。

因みに、1990年での日本の一人当たりのGDPは世界の9位で、アメリカとほぼ同じ金額だったが、2020年では23位まで下がり、5位のアメリカの約2/3となっている。また1990年では日本は香港やシンガポールの約2倍だったが、2020年では、両国(地域)共、日本よりはるかに高いレベルになっている。

因みに、日本の会社員の平均年収の推移を見ると、1970年頃は100万円を若干下回る金額だったが、1980年頃には300万円近くまで上昇し、1990年には400万円を超えた。そしてバブル崩壊直後の1992年が約450万円であったのだが、2020年では430万円程まで下がっている。これは異常としか云えない。