屋台や人々の放つ熱気に、圭太の胸の内からわいてくる熱気がまざる。熱気にみちた夏祭りの会場の上では、涼しげなすみれ色の空が、たちのぼってくる熱気をとかしながら、静かにたたずんでいた。

カラオケ大会が終わると、数人の役員によって簡易ステージが運動場の脇に寄せられた。それから、空けられたスペースで、市販の打ち上げ花火が何発か上げられた。小型でそんなに迫力はないけれど、周りを取り囲む人達が、ワッと歓声をあげ、拍手をする。大勢の人でそんなふうに眺めれば、小さな花火でも十分に楽しめた。

花火が終わると、夏祭りも終わりだ。保護者会会長と校長が終わりの挨拶をした後、三本締めが行われた。その後、運動場に詰めていた人達が校門へ向かって流れ始めた。徐々に運動場を満たしていた人と熱気が減っていき、先程まで風の通る隙間すらなかった運動場にようやく涼しい夜風が吹き抜けるようになった。

圭太の友人達は、夏祭りが終わるころに迎えにやってきた親と帰って行った。咲希も、いつの間にか帰ってしまっていた。金魚はとれたものの、咲希に話しかけるタイミングがつかめず、渡しそびれてしまった。咲希や友人達が帰った後、圭太は、自分の母が他の保護者会の人達と屋台の後片付けをしているのを手伝っていた。父は今日も仕事で忙しく、夏祭りには来ていない。

「まだまだ片付けにかかりそうだから、近くに住んでるお友達がいたら、一緒に先に帰っていてもいいわよ。その子のお母さんにお願いして、一緒に帰らせてもらって」

圭太の母が言った。友人達はとっくに帰っていたが、圭太は、

「そうさせてもらう」

と言った。暗い道を一人で歩くのには塾の行き帰りがあるので慣れていた。母は、塾からも友人達と集団で帰ってきていると思い込んでいる。圭太が、母の送り迎えを断る理由として、そう言ったからだ。圭太にとって、母や友人達と離れ、一人になれる時間は大切だった。

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※本記事は、2021年8月刊行の書籍『終わりの象徴』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。