三 アメリカひとり旅

これからの二ヶ月の長い夏休みは、バスでアメリカ一周の旅をしようと考えた。アメリカの夏休みは長い。それは、後に考えると、とても「無謀な旅」だったことを反省している。これから何が起こるかわからない、旅の始まりだった。

目標は、「アメリカ一周のひとり旅」だった。

「とにかく一人で一周してやろう。」と思った。まずは、ニューヨークを目指した。 

「なぜニューヨークを目指したのか。」

それは、なんとなく人がたくさんいるところに行ってみたいと思ったからだ。リュックの中には、いつも分厚い「地球の歩き方」のガイドブックがあった。その中のカラー刷りのページにはニューヨークのことがたくさん書かれてあった。バスの中でじっくりと読んだ。お金はないが、時間だけはやたらにあった。「ひとり旅」をする条件が揃っていた。

クリーブランドからニューヨークに向かう途中のバスの中で、隣の座席の黒人女性が声をかけてきた。

「今何を聞いているんだ?」と訊かれ、「音楽を聴いている。」と答えると、「それを聞かせろ!」と言う。

そのとき、「チャゲ&飛鳥」の「SAY YES」が流れていた。イヤホンを一つだけ渡すと、その女性は、リズムを取って、頭を振りながら気持ちよさそうに聴いていた。いつしか二人で身体を揺らしながら、リズムを取り、歌っていた。黒人女性の口から出る歌詞はもちろんでたらめな日本語だったが、何だか妙にきれいにハモっていた。

「音楽は、言葉じゃないんだ。」と思った。

一時間ほど聴いていただろうか。ニューヨークの街に入るとき、今度はこちらから訊いてみようと思った。

「ニューヨークはなんでビッグアップルって言うんだ?」と訊くと、「知らない。」と言った。

二人の交流は、それきりだった。

※本記事は、刊行の書籍『ロッキー山脈を越えて』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。