こうして私の新たな挑戦が始まった。職場では信頼されるように一生懸命働き、また新たな人間関係の構築(こうちく)のために、懇親(こんしん)会を提案して、幹事をやらせてもらったりもした。こうして着実に信頼を勝ち取っていった。

しかしいつもが順調という訳ではなかった。調子が悪い時は悪いなりに自身をコントロールできるように井戸に相談し、そして新たな打開策を見つける。この繰り返しであった。そして着実に私はステップアップしていった。

夏が過ぎた頃、私は疲れていた訳ではなかったが、心身に力が入らなくなることも出てきた。それはプレッシャーから押し潰されそうになった私に、リラックスするようにとの、身体からの警告だったのかもしれない。この時も井戸に相談した。

その井戸自身も気を張っていたせいか、私よりも緊張感が感じられる時もあった。この頃すでに北アイルランドへの航空券を、お互いに購入していた井戸と私であったが、井戸は私にこう切り出すことがあった。

「私が仮に倒れて、田中さん一人になっても、必ずロバートさんに会いに行って下さい!」

この時井戸は、心身共に緊張状態がマックスになり、持病の高血圧でいつ倒れてもおかしくない状況だったのである。お互いが(つら)い中、北アイルランドの地では、私たちを待っていてくれているロバートやショーンがはらはらしていた。

遠き極東アジアの国、日本からユーラシア大陸を越えて、本当に無事に現地入りを私たちができるのか心配していたのだ。

中でもショーンは日本に来たことがあり、酷暑の夏を私たちが乗り切っていることを、承知してくれていた。北アイルランドの夏は湿度が低く、最高気温も二十五度くらいまでしか上がらない。かといって冬は雪が降るでもなく、一年中快適な気候なのである。だからこそショーンは、日本の本州の夏の厳しさを肌で知っていたのである。

【前回の記事を読む】「これからが本当の勝負」未だ見ぬ虹を追いかけ、今、旅だちのとき。

※本記事は、2022年5月刊行の書籍『未来旅行記 この手紙を君へ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。