【前回の記事を読む】【エッセイ】承認欲求で悩むあなたへ…心の処置方法とは

第1章 般若心経「(くう)」的生き方の智慧

不条理を生きる〜小説『ペスト』から学ぶ〜

コロナ禍を生きることは、思うようにならない現実と向き合うことでもありますね。小説家アルベール・カミュの作品には、不条理をテーマにした作品が数多くあります。彼は「答えの出ない不条理な現実とどう向き合っていくか」を、作品を通して語っています。

彼の作品に『ペスト』というのがあります。ペストが蔓延したアルジェリアのまちオランで、恐怖と闘う人間模様と、その状況からあぶりだされる人間の欲望やペシミズムなどが見事に描かれています。ちょうど、現在のコロナ禍と状況が酷似していて、今読むとさらにリアリティーを感じるでしょうね。

結局、カミュが作品を通して伝えたいことは「人間がコントロールできないものに対して、私たち個人がすることは何だろう」という問いかけ。さらに「今、それぞれが、自分にできることを精一杯するしかない」そんな彼の答えが、盛り込まれているような気がします。

先行き不透明なこのご時世、コロナがますます人の不安に拍車をかけています。自分ができることは過度に自分や周りの不安を(あお)ることではありません。あらためて今、自分ができることを淡々とするしかないのです。そして、全く楽観視することもなければ必要以上に悲観することもない。各々が心の中庸(ちゅうよう)を取っていく。じつはこれが“マインドフルネス”の目指すところでもあります。

マインドフルネスは、「今、この瞬間に気づくこと」「心が100%、今ここにある状態」のことです。積極的に悩みを消そうとする取り組みではありません。忙しくなっている心を一旦止め、今ここに集中することで自然に悩みから離れるというもの。そしてもう一つは、今起きている状況を俯瞰で観察することです。それは、悩みをそれ以上に拡張させないための取り組みです。

悩みは起きた状況より、そこから導かれる不安予測が悩みの波紋を広げます。それを仏教では「戯論(けろん)」といいます。波紋が広がる前に何らかの手立てを講じられれば、人はそこまで苦しむことはありません。