夢を見た。遥か遠くの過ぎ去った日々を回想した。

今日、偶然出会ったあの彼女。華岡朋子が主役で進行した。中学や高校時代の友人が過去から現在にどんどん断片的に登場した。

いろいろな場面に、現れては消えて又突然現れた。時間は勝手に進んだり戻ったりして行く。

夢劇場を特別指定席で見ていた。あの頃に戻って皆に会えた。不思議とあの青春時代の心の痛みは感じることは無かった。

翌朝、目が覚めても劇場の幕は下りなかった。物語の余韻を持ったまま会社に向かった。

土曜日は営業の仕事は暇だった。午前中は得意先回りをして、昼からは特に予定は無かった。昨夜、夢劇場に現れた小学校六年B組の友人や中学高校の友達と過ごした、懐かしい学校を何十年ぶりに訪ねてみようと考えた。

まず、一番近くの桜山高校へ向かった。

グランドから、昔と同じ懐かしい野球部の練習の掛け声が聞こえた。

よく仲間とふざけて話をしたベンチも昔のままだった。

次に、志希小学校に向かった。

胸で熱いものが弾けた。

学校の横を流れる志希川が、こんなに狭い川幅だったのかと改めて思った。

川面を見ると、水面から頭が出ている石は昔に見た様な気がした。しばらく橋の上から眺めていた。

そして、懐かしさの面積で一番多く占めている桜山第Ⅲ中学校へ向かった。

学校の近くで、車を止めて周りをゆっくりと歩いてみた。

思い出の風景が時間を巻き戻した。

誰もいないグランドを金網越しに見た。

目をつぶるとフォークダンスの音楽が聞こえて来た。やっぱりとても切なかった。古い校舎は昔の匂いが感じられた。校門近くの花壇も通学時に眺めた風景と同じだった。

大学は少し離れているのと、あまり感動の思い出が無かったので、今日は行かないことにした。

その日の夜は、昨夜の夢友達を誘って、リビングでワイルドな甘い香りのバーボンウイスキーで思い出の風景に足を踏み入れた。昨日のように断片的ではなく、今日見て来た小学校から順番に訪ねる事が出来た。

明日は日曜日なのでゆっくり思い出のアルバムを見ようと考えた。昨日と違って思い出の世界に積極的に踏み込むことになった。

懐かしく見て来た校舎やグランドが、思い出を優しく呼び寄せてくれた。実家から持ってきていた、小学校から大学までの四冊の卒業アルバムを、自分の部屋の本棚から探した。

確かあったと思っていたはずの、小学校のアルバムが見当たらない。でもあったはずだと本棚の引き戸を探した。やっぱりアルバムは見当たらないが古い紙袋があった。それは高校三年の時に華岡朋子から、別れ話の最後に渡されたものだった。

封筒を開けてみた。小学校六年生の鉄平が書いた幼稚な恋文と山岸が華岡に出した手紙だった。見ているうちに思い出が押し寄せてきた。結局あちこちを探してみたが小学校の卒業アルバムは見つからなかった。

 

まず、中学のアルバムから手に取った。

やっぱり一番に、あの彼女のクラスを開いて見た。華岡朋子は、今も鉄平に微笑んでいるようだった。次に自分のクラスを開いた。

鉄平の隣に親友の森山が並んでいた。よく見ると森山の顔にボールペンのようなもので長髪にして口髭まで書いてあった。いつだれが書いた悪戯だろう、思い出せなかった。思わず頬が緩んで笑った。そこには、小学校六年B組の遠足の集合写真が一枚挟んであった。

そして、六組だった山岸明日香のクラスを開いた。あの日と同じ様に少し横向きにすましていた。そしてもう見ることは無いと思っていた、華岡朋子に渡した幼稚な恋文と山岸明日香が華岡にあてた手紙に引き込まれた。思い出が一つ又一つと順番を争う様に湧き出て来た。

もう一杯バーボンを、顔の前でグラスにとくとくと音を発して注いだ。氷の間に琥珀色の綺麗な志希川が流れた。一気にバーボンをあおった。

この年になっても絶対に消えない思い出があった。あの彼女と偶然再会した瞬間から鉄平の心は小学校の卒業アルバムの中にいた。

ゆっくりと天井を眺めた。しばらく目を閉じていた。瞼に眩しい光がアルコールと融合した。まどろみの世界で目を開けて周りを見た。そこは紛れもない志希小学生の鉄平達が学級新聞を作成している部屋だった。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『爽快隔世遺伝』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。