意識が朦朧としている時ベッドで移動し、家族や親戚の前を通ったのをかすかに覚えている。その後集中治療室に入った。私の手術は成功した。開腹してリンパ節を調べてみるとリンパ節には浸潤していなかったので、胃の三分の一は残り、リンパ節の切除もしなかった。リンパ節に浸潤していなかったことは本当に不幸中の幸いであった。

とはいっても、意識がはっきりするにつれて手術というものの恐ろしさが分かってくる。何しろお腹の真ん中を十五センチ位切ってあるのだから普通の状態でいられるわけがない。しかも、お腹の中では胃が切られ、今までとは違うところで吻合しているのだから。

体中にいろいろな管がついている。意識はあるが自分の体を動かすことができない。汗をかいているのに寒気がしてきた。掛け蒲団をもう少し上げたいがそれができない。何かあったらボタンを押してくださいと看護師が言っていたのを思い出し、押してみた。看護師はすぐに来てくれた。

「どうかしましたか」

「ちょっと寒気がするので、掛け蒲団を上げて欲しいんですが」

「分かりました」と言って、さっと上げて出ていった。

「忙しいんだな」と思った。この病院に初めて来た時、その患者の多さに驚いた。がんになっている人がこんなにもいるのか。大半は自分と同じ高齢者であるが、中には若い人もいる。若い人を見ると、自分もがんなのに、本当に気の毒になってしまった。

※本記事は、2022年6月刊行の書籍『がん宣告、そして伊豆へ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。