トロワ

森はパグの頭を撫でながら、あとから駆け付けた妻と朝食を摂っている。カウンター向かいの拓史に尋ねた。

「やっぱりトロワは土・日を休みにするんか?」

「はい。スタジオの来客に追われるので、カフェは無理なんですよ」仁美が代わりに答える。

「この辺で週末に店を閉める喫茶店なんて聞いたことないで」

朝から来店客に追われることもなく、スタッフ同士で会話を続けられるのも、名古屋の過激な喫茶モーニング販売競争にトロワが加わらなかったおかげ。高めの価格設定のモーニングセットは、森夫婦とトロワのスタッフのためのものになっている。トロワは近隣ビジネスマンのランチ需要にターゲットを絞る。早起きが苦手な真由子に時間を合わせたことにもあるかもしれない。拓史の配慮だ。

「軌道に乗ったらまた考えますよ。なあ、真由子」

拓史は森の問いを真由子に振る。本業はスタジオだという意地と密かなプライドもあったが、いずれ真由子に任せたかった。

「今度入社した小絵ちゃん、かわいい娘やな」

「えっ! まだ紹介してないのに、森さん素早いですね」

「もともと彼女は美容師でね。勤めていた美容室を辞め半年遅れでトロワに移籍してきたんですよ。写真のセンスも抜群ですよ。彼女とは仕事上でも長い付き合いなんですよ」

「ひょっとすると、君のナニか?」

森の観察眼は侮れない。小絵は取引のある美容室で店長を任されていたが、トロワのスタートから半年遅れでスタジオの社員になった。拓史は小絵のヘア・メイクの技術にも一目置いていた。実は社員以上の関係であることを森に読まれていたのかもしれない。

「やめてくださいよ。まったく」

「じゃあ! 今日でも彼女に写してもらおうか」

「彼女は今日ロケハンに行ってますよ」

森夫婦は帰っていった。